《71..悩めるオカメーヌ》
今、俺達は報告の為にギルドの応接室にいる。
俺、モッチャン、オカメの3人の向かいにはギルドマスターのコテツ、受付嬢のオチヨが座っている。
「……成る程。今回の魔獣問題の元凶は、侵略の悪魔が仕組んだ事だったわけだね。良かったよ、君達を派遣していなかったらどうなっていたか……礼を言わせて貰うよ、ありがとう。」
コテツが頭を下げる。
「オカメちゃんにも大怪我させてしまって……命の危険にさらしてしまってごめんなさい。でも、冒険者達や私達の息子達は、あなた方のお陰で救われました、本当にありがとう……」
オチヨが涙で目を腫らして謝罪と御礼を告げる。
「そ、そんな、顔をあげてくださいませ!」
「そうですよ、実際、俺達は他の冒険者達を放ったまま帰ってきちゃいましたし……オカメを、仲間を守れなかったし……」
実際に途中でぶち抜いた訳だし、彼等が帰還した時、どんな顔をされるかわからないのだ。
その後、俺は今後の事がある為、他の四人に俺は自分の事について正直に話しておく事にした。
私に侵略の悪魔の疑いがある事。
もう1人の人格『勇者ハリー』の存在の事。
西聖獣、白虎であるコアラの事。
そして、『聖剣エルハザード』と『ペイデの意思の存在』の事。
ただ、やはり私が転生者であるという事だけは伏せておいた。普通に考えれば、『転生』という事は現実的にありえないものなのだから。
四人は真剣な眼差しで俺の話を聞いていた。
「うん、成る程。話はよくわかったよ。ただ、君が例え侵略の悪魔だったとしてもさ、君自信の意識は保っていたわけだろぅ?という事は…だ。逆に言えばその侵略の悪魔の力が、我々側の戦力にもなりうるという事だろう?それに、何よりも君は我々の希望である『勇者』なんだ。俺っち達は君を頼りにしている。これからも宜しく頼むよ☆」
こうして俺達は後日、モスケとヨウ、『三本矢の絆』『紫電来豪』『戦姫艶団』達が帰還した後に、改めて報告会及び褒賞の儀式を執り行う運びとなり、ここで一度解散となった。
「モッチャンはこの後、どうするの?良かったら俺達と一緒に晩飯食べない?俺達の宿に店があるんだけど、滅茶苦茶美味いんだよ。どうかな?」
「宜しいのですか!?わたくしはお城の客間をお借りしておりますし、特に予定はありませんので、是非ともお供させて頂きますわ♪」
内心、ガッツポーズを決めるモッチャン。
「そんじゃ、腹も減ったし、早速行こうか、オカメ。」
「……………。」
「………オカメ?」
「……ん!?……あっ、そうやな、行こ行こ♪」
あれから心ここにあらずな状態のオカメ。
元気いっぱいのいつものオカメの姿は無い。
やはりオカメはあの少女との出会いに思うところがあるのだろう。
あの後、オカメはラピと名乗った少女の顔をしばし見つめ……「ありがとうなぁ」と一言告げると、複雑な表情で目を伏せてしまった。
(わたくしも事情は伺っておりましたとはいえ、この様な形で突然、妹君と出会われてしまって……お気持ちの整理がつかないのでしょうね……ここは一人にして差し上げるのが宜しいでしょうか……)
その様子を察したモッチャンが「少しオカメ様を休ませて差し上げましょう」と、オカメを残し、待合室の方へと促した。
モッチャンは何やら事情を知っているのかな?
全員が退室しようとした時に、最後にドアからひょっこりと少女が顔を出し、
「無事で何よりです、ま、また会いましょうねっ。」
……と一言を告げ、タタタッとチラ学園長の元へと駆けていった。
ドア越しにオカメの啜り泣く声が、静かに耳に響いていたのを覚えている。
《おい、ハリー、着いたぞ、『居酒屋食堂まつぼっくり』》
「……えっ?あっ、あぁ、本当だ。数日ぶりに帰ってきた……って感じがするなぁ!!」
コアラの声に、わざとらしく応える。もはや何度も往復した道だ、体が覚えている。しかし、わざとらしく振る舞ったのは、オカメに気取られない為であった。
「ここがハリー様が寝泊まりされている……ごくり」
ん?モッチャン?今、なぜ生唾飲んだ?
……あぁ、そこまでお腹が空いてるということか、申し訳ない。
カランカラン……
「………うへぇ。」
酒臭ぁ……。
店に入ると、既に出来上がったオッサン達で盛り上がっていた。
「おっ!?皆ぁ、英雄様のお帰りだぜぇ!!」
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
一斉に気の良い男達に囲まれてしまった。今日はまた一段と男臭ぇ!!
「聞いたぜ!!あのヒュドラに加え、あの侵略の悪魔まで退けたらしいな!!」
「オカメーヌ様!!お怪我は!?お怪我は大丈夫なのですか!?……って、怪我されてねぇぞ?どうなってんだ?」
「ちょ、あれ、あの方は『聖女様』じゃないか!?な、なんと美しいんだ!!」
「……ゲボロロロロ……」
矢継ぎ早に浴びせられる賛美の声。
うーむ……お腹が空いて倒れそうだから、とりあえずご飯食べさせて欲しい。
つか、誰だよ、最後に吐いてたやつ。
「あらあら~、お帰りなさい~♪みんなぁ、ハリーさん達は~お疲れでしょうから~、とりあえず食事させてあげてちょうだいなぁ~♪あらぁ、可愛い、あなたが『聖女』ちゃんねぇ~♪あたし、オマツ。宜しくねぇ~♪」
良かった。
オマツさんの助けが入って、むさ苦しい男達がわらわらと指定の席へと散っていく。
「こちらこそ初めまして、モッチャンと申します。うふふ、こんなに明るく楽しい食事会はわたくし、初めてですの♪ハリー様、オカメ様、改めてお誘いありがとうございます♪」
「いやいや、まだ料理も出てきてないから。オマツさん、いつもの飲み物と料理、お願いします!!」
「はぁ~い、任せてぇ。腕によりをかけて振る舞っちゃうわぁ~♪」
それから俺達はオマツさんの料理に舌鼓を打ちながら、すっかり出来上がった男達と騒ぎ、夜が更けていった。
カランカラン……
「………ん?」
その時、店の出入口が開く。
こんな時間から来客?
「…………あっ……」
入店してきた一人の男に目をやり、その目が見開かれる。
「……おぉ、やはりここにいたのか。探したぞ!」
オカメの肩がビクッと跳ねる。
そこには王国聖騎士団長、チコの姿があった。