《69..診療所再び》
「な……何だ!!?……まさか、魔獣が王都に攻めてきたのか!!!?」
数人の憲兵が虎亞羅を取り囲み、手にする槍を向けて身構える。
しかし、ふと視線を上げ、その背中に見える見知った人影に気付く。
「………あれ?……貴女は……『聖女』様??
それに君はオカメーヌ様の……って、オカメーヌ様?? オカメーヌ様!!!
お怪我なさっているではないか!!!!医者だ、医者を呼べ!!!!」
「待て!緊急手当てには施設が必要だ!それに俺様がこのまま診療所へ運ぶ方が早えぇ!悪りぃが、お前は俺様達が帰ってきた事をすぐにギルドへ伝えてくれ!」
「貴様、従者の分際で……しかも俺はここを持ち場にしている『憲兵』なんだぞ……!……だが、今は緊急だ、わかった、ギルドには俺が伝えに行くから、貴様はオカメーヌ様を頼んだぞ!」
「恩に着るぜ!」
虎亞羅はそのまま王都に入れば大混乱を招く為、ハリー達を下ろすと元のコアラへと戻り、ハリーはオカメを抱き抱えている為、代わりにモッチャンの頭の上に乗っかる。
そしてハリーとモッチャンは中央街道を駆け抜けていく。
【ハリー、そこを右にまがって!……そう、そこ!……で、三軒先を左に……!それから……あの街路樹の先に看板が出てる……あっ、そこ!!】
私が意識の中でハリーを診療所へ誘導する。
そして、顔馴染みの診療所に到着。何気にハリーのやつ、オカメを抱えているのに無茶苦茶速い。多分、私が走るよりも数段速い……。同じ身体なのに。
「先生――――!!!! いるかぁ――――!!!?」
ドカァァ――――――ン!!!!
ハリーは扉を思いっきり蹴り飛ばす。
……いや、オカメかよ!……と、一応ツッこんでおく
「あ――――――っ!!!!新調したばっかりの扉がぁぁぁ―――!!!!」
部屋の奥から、この診療所の主――――院長オジジの悲痛の声が突き抜けてくる。
《ちょ……待て、待て待て待て…………ぎゃぁぁあぁぁぁ!!!!》
――――ガンッッ!!!!
ハリーに次いで診療所内に飛び込んできたモッチャンだが、その頭の上に乗っかっていたコアラが扉の鴨居にその大きな鼻をぶつけた鈍い音が響く。
「お前達はいつ来ても騒がしいな……って、おい!!!オカメが重症じゃないか!!すぐに診察台に乗せろ!!」
看護師のプラム、ケセランの助けを借りながら、オカメを診察台に寝かせる。
「……むぅ……これは非常にマズい状況だ……プラムちゃん、直ぐに輸血の準備を!!ケセランちゃんは麻酔投与の準備をしてくれ!!」
「「はいっ!!」」
オジジは直ぐに治療にあたる。たが、状況は良くないようだ。
「治療して傷口を塞いだとしても、肝心なオカメの体力が持たない……血を流しすぎているし、血圧も低下していっている……!!」
「先生!!心拍数が急激に低下しています……!!」
「くそっ……くそっ、何とか命を繋がなければ……!!」
いつもの飄々とした姿はそこには無い。
院長オジジは王都きっての名医だ。
その彼の神の手をもってしても助からないというのか……!!!?
「そぅだぁ、先生ぇ、あの方なら……あの方なら彼女を救えるのではぁ!?」
ケセランが何か思い当たるふしがあるのか、真剣な眼差しでオジジを見つめ、嘆願する。
「……そういえば、君はあの学園の卒業生だったね。あの人は、確かにあの秘術が使えるのかい?」
オジジも共通の思いに辿り着いたようだ。
「はい、確かだとぉ思いますぅ。」
「では、こうしてはおれん、ケセランちゃん、すぐにあの人を連れてきてくれないか!?……頼む!!」
神の手の名医、オジジがケセランに頭を下げ、最後の望みを彼女に託す。
いったい、それ程の名医がまだいるというのだろうか……?
「でわぁ、すぐに…………えぇっっ!!!?」
―――――――バサバサバサァァァァッ!!!!
突然、壊れた扉の先に大きく、美しく、燃えるように真っ赤な鳥が降り立った。
そして、その宝石のような煌びやかな鳥の姿がグググッと形を変え、一人の美しい女性へと姿を変えた。
その美しい女性と、もう一人の少女は、ハリーとモッチャンの前を横切り、颯爽と診察室へと入っていく。
(……あれ?今の少女……)
私は少女の顔を見てギョッとする。とてもよく見知った顔がそこにあったからだが、ふと見るとモッチャンも同じくギョッとした顔をしているのに気付く。あの顔は………
「話は聞いた、ワシの方から出向いてきたぞ。」
真っ赤な長い真っ直ぐな髪に金色の瞳、スラリとしたモデル風の美女。その背中には真っ赤な翼が一対、綺麗に畳まれている。
「……チラ学園長!!!?ま、まさか貴女様からいらっしゃるとは……!!!!それに、そのお姿はいったい……!!!?」
オジジが驚愕する。それもそのはず、先程話をしていたあの人とは、まさに彼女の事だったからだ。
「ともかく、話は後じゃ。このワシよりも優れた魔導師を連れてきた、早速頼むぞ!」
彼女の後ろから少女が歩を進める。
西洋人形のような白い肌に、燃えるような赤い瞳。やや癖のある肩にかかる程の長さの黒髪。私達はその顔に見覚えがあった。
「は、初めまして!!あの……魔導学園3年生の、ラピ・コといいます、よ、宜しくお願いしますっ!!」
緊張の面持ちで少女は名乗ったのだった。