《67..真実を知る》
《グゥッ……我ハ『侵略の悪魔』ナノダゾ……コノ世界ヲ屠リシ存在ナノダ……ソノ我ガ……コンナ『ウィルス』一匹ゴトキニ……!!!!》
『深淵』は黒炎を操り、ハリーに向けて高質化させた剣、槍、拳を複数形成し、怒濤の攻撃を見せる。
だがそのどれもがハリーの、更には『聖剣』によって叩き折られていく。
《ナゼダ……!!!!ナゼ、コノ我ガココマデ圧サレテイル……!!!?ナゼ我ノ攻撃ガ届カナイ……!!!?貴様ハイッタイ何ナンダ!!!!?》
黒炎の勢いが、少しづつ削られていく。
「あー……なんだ。俺様は『勇者』だ。……んで、テメェが圧されている理由……だったか? そんなのは簡単だ。」
テメェは俺様を……そして……ハルノを怒らせた―――――。
ハリーは聖剣エルハザードを右上段に構え、ジリジリと『深淵』に迫る。
《チッ……コノママデ終ワルト思ウナヨ………》
「…………むっ?」
『深淵』は地面を蹴り、高々とグングン飛び上がっていく。
そして、その頭上に超高圧の波動の弾を練り上げ、その大きさは瞬く間に大きくなっていき、真っ黒い渦が蠢いていく。
《ケケケケ!!!!最早容赦セズ、全テヲ破壊、消滅させてくれるわ!!!!》
―――――トン。
《……………エ?……………アレ……………?》
上空に上昇する『深淵』の背中に何かが当たる。
いつの間にか半球体状に張り巡らされていた氷の障壁。
『絶対零度の氷籠』
『深淵』は地上に視界を落とすと、忌々しいこの氷の壁を展開させたと思われる『蒼の勇者モッチャン』の姿を見つける。
《クッ……!!!………コッ……コノ虫ケラ共ガァァァァァァァ!!!》
「貴方は……このわたくしが命に代えても……逃がしません!!!!
そして、この距離でその波動の弾を放てば……貴方自身も無事ではすみませんよ!!!!」
《クソ共ガァァァァァァァ!!!!カマウモノカァァァァァ!!!! 貴様ラ……纏メテ死ネェェェェェェェェェ!!!!!》
怒りに我を忘れた『深淵』が上空から地上へ向けて巨体な波動の弾を放つ。
「………テメェが死んどけ糞野郎!!!!」
【斬撃:明鏡止水】
リィィ―――――ン……………
一度、鞘に納めた『聖剣』の鍔を再び鞘に添えた左手の親指で弾き、右手で静かな波紋が水面に静かに広がるかの様に……静かに『聖剣』を『深淵』に向けて引き抜き、横に薙ぎ払う。
―――リィィ―――――ン……………ズパババババババババァァァァァァン!!!!!
《グァァァァァッ、馬鹿ナ、馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナァァァァァァァ…………コノ我ガ………コノ我ガァァァァァァァ―――――――!!!!!》
ハリーが放った斬撃は光のヴェールの様な形状をした一筋の刃と化し、波動の弾もろとも『深淵』を捉え、無数の斬撃を炸裂叩き込みながら貫通両断し……大空に消えていった。
黒い塵の様になって『深淵』の身体が四散し、消滅していく。
「………ん?」
ふと気付くと、いつの間にか何もない空に小さな裂け目が現れていた。
「あ……マズっ………」
四散していくと思われた『深淵』の黒い塵が裂け目に吸い込まれ、消えてしまう。
「むぅ、逃したか………。
だが、まぁ……とりあえずタイマンは俺様の勝ちだ。仇はちゃんと討ったぜ?なぁ、ハルノ。」
【ハリー……ありがとう……。】
そっか……『勇者』はハリー、あんただったんだね……。だから私では『聖剣』がうまく扱えなかったんだ……。
何より私は……皆の敵、侵略の悪魔だったなんて……。
ははっ、可笑しいよね、敵のはずの私が『勇者』ぶってたなんて……!
私が最初から侵略の悪魔だって分かってたら……早くにハリーに気付いてたら……オカメだって死なずに済んだかもしれないのに……。
ハリーに身体の所有権を渡している間、私は別意識の中で『聖剣』の中にいる『ペイデ』に話を聞いていた。
本来、ハリーだけが転生し、『白の勇者』になるはずだった事。
不運にも人間の私が偶然『キーコード』に辿り着き、ハリーと一緒に転生してしまった事。
転生先で『導きし者』としてハリーを導くはずだったコアラだが、敵である人間、ハルノが混ざってしまったが為に『勇者』と『聖剣』を構築するシステムを保守的にシャットダウンし、記憶を封印した事。
そしてこの戦いでコアラが気絶し、システムシャットダウンが解除された事で『勇者』と『聖剣』の封印が解け、『ハリー』と『ペイデ』が出てこれた事。
因みに、サラリと話を流してしまっているが、『ペイデ』とは、かの初代勇者、『英雄ペイデ』その人である。
彼ら初代勇者達は命が尽きると共に、ある目的の為に自らの意思を『勇者武器』に融合させたのだという。
ある目的とは……いづれわかる日が来るのだそうだ。
ハリーは剣を収めると、モッチャンの元へ駆け寄る。
倒れたオカメの顔を……その目に焼き付ける為に……。
「あら?ハリー様、何か雰囲気変わられましたか……?
ワイルドになられたと言うか……獣と言うか……。
あっ、そうですわ!因みに、オカメ様はまだ生きていらっしゃいますわ!」
――――――えっ!?
「ただ、一刻も早く緊急治療が必要ですわ……。わたくしの回復魔法ではお救いする事が………不可能ですの……。精一杯、回復に努めておりますが、最早、時間の問題かと………。」
とりあえず生きていてくれて良かった……。
オカメの容体を見る。
顔面蒼白で、いつもの白い顔が更に青白く血の気が引いてしまっている。
肩口から脇腹にかけての裂けた傷口は、モッチャンが氷で凍らせて止血している。
だが……素人目で見てもわかる。呼吸は弱々しく、今にも止まってしまいそうなくらい事態は深刻だ。一刻を争う………だが、どれだけ急いで王都への帰還日数は来た道の時間まるまるかかる。それは3日にも及ぶのだ、到底間に合う筈がない………。
どうすれば………。