《66..ニンゲンと人間》
オカメのドレスが斜めに避け……鮮血が飛び散る………。
両断された訳ではないようだが、その身体を支える両足は力を失い、「ドサリ」と崩れ落ちる。
「あ……あぁ、あぁぁ………」
首を捕まれ、宙に吊り上げられたまま……俺は頭が真っ白になっていく。
大粒の涙が溢れ、頬を流れ落ちる……。
『深淵』を掴む両手が震え、やがて力を失いダラリと垂れ下がる。
オカメが………殺された。
殺されてしまった…………。
―――――――誰に?
―――――――ドクン。
《………ムッ……?………何ダ??》
…………ザワッ………。
ドス黒い精神力が身体を巡りゆく……。
《よせ!!!!ダメだ、ハリー!!!!自分を見失うな、ハリー!!!!》
コアラが叫ぶ。しかし俺にその声は届かない。
《コノ『ウイルス』ノ気配ガ……何カニ変ワッテイル……?》
俺の目が眼下の『深淵』を捕らえる。
―――――オカメを殺したのは………お前だな………?
………ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………ッッ!!!!!!
俺の身体から真っ黒い炎が勢いよく吹き出し、溢れ出る。
侵略の悪魔とよく似た………黒炎。
その黒炎が身体を包み込み始め……黒く染めていく。
《ケ……ケケケ!!……何ダ!!貴様モ我等ト同ジ侵略の悪魔ダッタノカ!!!!……コレハ大収穫ダ!!!!新タナル『勇者』ガ、ヨリニヨッテ我ガ同胞ダッタトハナ………!!!!》
『深淵』が歓喜に震える。
そう言えば、コイツらは自分達を『ニンゲン』と言った。
考えてみたら……『私』は『人間』だった。
『私』は……最初から『敵』としてこの世界に転生させられてきたのか……。
《こんにゃろ!!ハリーを放せ!!コイツは『侵略の悪魔』なんかじゃないぞ!!このオイラが見初めた、立派な『勇者』だ!! 離さないと鼻くそ付けるぞ、覚悟しろ!!!!》
コアラが黒炎の中、『深淵』に飛びかかり、噛みついている。
《オイラだって戦える……!!オイラだって、ハリー達の仲間なんだ!!おらおら、ハリーを放せ!!放しやが………ぐはぁぁぁ!!!!》
………パキャッ。
コアラは最初から眼中に無かったのか、指1本で弾き飛ばされていく。
ピクピクピク……。
また気絶したようだ。何気に硬いよなアイツ。
………ん?………また気絶??
《アップデート条件確認。機密キーを解錠、システム起動。神幻獣『白虎』構築…顕現……承認。システム起動……承認。モデル『聖剣』アップデート顕現します。》
====ヤット1ツ目ノ封印解除トナッタ様ダナ……。人間ノ子ヨ、今コソ我ガ使命ヲ継ギシ者ヲ目覚メサセヨ……ワガ名ハ『ペイデ』。聖剣『エルハザード』ニ宿リシ者ナリ……。
今一度伝エル。我ガ使命ヲ継ギシ者ヲ目覚メサセヨ……====
『侵略の悪魔』と変わりつつある俺の頭に、あの時……そう、この聖剣に導かれた時の声が直接流れ込んでくる。
『聖剣エルハザード』?『ペイデ』?『使命を継ぐ者』??
だがもう俺の頭は深く考えられない。
オカメを殺した……目の前のコイツを……コイツらの力で……
――――――ぶっ殺す!!!!!!
【おい、バカ。】
――――――あ?…………誰だ?
【何やってやがんだよ、バカハルノ。】
――――――え?
【俺様だ。長年一緒に過ごしただろうが!!俺様だよ、俺様!!】
――――――えっ………まさか………!!!!?
頭の中にまた別の声が聞こえている。これは……もしかして………
【そうだ、俺様だ、ハリーだ!!今から俺様、『勇者ハリー』があの影野郎をぶっ殺してやるから、とりあえずハルノ、俺に代われ。身体の所有権を一旦俺様に寄越せ!!】
――――――ハリーだ!!
手にする大剣が目映いばかりの白い光を発し、輝きを纏う。
同時に、身体中から吹き出していた漆黒の炎は消え去り、光の『精神力』が身体を包み込む。
そして、黒かった髪の色も真っ白に変化していく……!!
バシャッ!!!!
首を掴んでいた『深淵』の左腕が吹き飛ぶ。
《………グオァァァァァァァッッ!!!!我ノ……我ノ腕ガァァァァァァァ!!!!!》
「おっと、テメェの身体は再生されるんじゃなかったのか?
まぁ俺様の聖剣の能力は簡単には対処出来ねーけどな。
散々調子こいてくれてんだ……ただですむと思うなよ?
……覚悟は出来てんだろーな?あぁん?」
ハリーは『聖剣』をヒュッと1振りすると、ドカッと肩に担ぎ、構える。
「さぁ、タイマンといこーぜ?」




