《63..対 侵略の悪魔①》
時は少し遡る。
炎の首をモッチャンとモスケが『天使の大翼』で吹き飛ばした後の事だった。
「あっ、やべッス!!戦姫艶団の方々……あれじゃ危ねッス!!ちょっと援護に行くッスから、姉ちゃん、ヨウの手当てを頼むッス!!」
モスケは早々に最後の1つ、氷の首と対峙する『戦姫艶団』の援護へと向かった。状況の把握が早く、素早い判断力だった。
モッチャンは成長した弟の行動に目を細め、気絶しているヨウの治療に向かう。
「君達の援軍に感謝する!!さぁ、共にあの化け物を仕留めようぞ!!」
『紫雷来豪』のチィ、タツヤ、ピピマルが俺とオカメの元に歩み寄る。
2つの首を失い、片足を失ったヒュドラは最後の抗いで暴れている様なものだろう、全員でかかれば仕留められるはず……。
巫女のハルは回復魔法が使える事もあり、モッチャンのいるヨウの元へと駆け寄っていく。
――――――ゾクリ。
突然、後ろから心臓を掴まれたかの様な冷たい悪寒が全身に走る。
(何だ……この嫌な感じ……は……!!!?)
身体中から血の気が引き、毛穴が開く。
《ハリー!!!!気を付けろ!!!!奴が来る――――!!!!》
唐突にコアラが叫ぶ!!!!
我に返った俺は、全力で全員に向かって叫ぶ!!!!
「―――――――伏せろぉぉぉぉ!!!!!!」
――――――パチュンッッッ…………。
一瞬だった。
突然放たれた静かな衝撃波……いや、正確には強大すぎて音を通り越した衝撃波がヒュドラの身体を粉々に吹き飛ばしたのである。
あれだけ俺達が苦戦していた、あのヒュドラを……だ。
俺の声に反応したのは『稀代の勇者』モッチャン、只1人であった。
その彼女でさえ瞬間的に魔導障壁多重結界を10層重ねたに止まり、その10層でも受けきれずにダメージを受けた様だった。モッチャンの障壁によって護られたハルと、怪我で気絶中のヨウは無事であった。
だが……急な俺の叫びに反応出来なかった『紫雷来豪』のメンバーはヒュドラが盾になったのが幸いし、直撃は避けたものの……全身にダメージを受け、血塗れになった姿で転がっていた………。
かくいう俺は、隣にいたオカメを引き寄せ、地に伏せる事により衝撃波の直撃を避ける事が出来たようだ。それでも交わしきる事が出来ず、暖かい血が頭から頬を伝い、流れる。
そして、グチャグチャになったヒュドラの死骸の向こうから、ヒタヒタと歩いてくる異形の者―――――侵略の悪魔。
《ハリー……ダメだ。今、こいつと殺り合うべきではない……!!!!
一瞬で殺されてしまうぞ……!!!!》
コアラが俺の頭に乗っかり、俺に告げる。
「わたくしの故郷が、侵略の悪魔に壊滅状態にされかけましたから分かります……!!!!大きさは全く違いますが……間違いなく、『天燃ゆる厄災』を引き起こす元凶、『侵略の悪魔』に間違いありませんわ!!!!」
「確か……その時は『四色の閃光』……つまりは四本の勇者武器の力によって退けたんやったな。……そやけど、今はモッチャンの青と……目覚めとらんハリーの白の二色しか無い……だいぶ分が悪い状況やなぁ……。」
俺達3人の顔に恐怖と不安の汗が流れる。
ヒタ……ヒタ……。
暫く沈黙が続き、固唾を飲む。
やがて、その沈黙が意外な者から破られる。
《……ク……ククク……我ガ天敵ノ『ウイルス』ヲ誘キ寄セルタメニ罠ヲ仕掛ケタノダガ……我ハ運ガ良イ……2匹モ『ウイルス』ガ掛カルトハ……ナ……!!………ケケケケ!!!》
「……えっ……!!!?侵略の悪魔が……喋ったですの!!!?」
モッチャンから驚きの声が上がる。
そして、俺は俺で、奴を見た時からずっと気になっていた事があった。
真っ黒で影の様な姿――――のっぺりとした、目も耳も鼻も無い顔――――。
――――夢の中で見た………あの影に非常に酷似している様な気がする…………と。