《60..対ヒュドラ①》
「はぁぁぁぁっ!!!!」
俺は迫り来るヒュドラの1つ目の長い首をすり抜けて交わすと、2つ目の首を駆け上がる。
そこに横から3つ目の首が牙を剥き迫り来るが、そこにオカメが間に切り込み、炎剣で受け止める。
「ふんっっ!!!!」
俺は駆け上がった2つ目の首を踏み飛ばし、3つ目の首を目掛けて上段から大剣を振り下ろす。
ドゴォォォォ――――ン………
3つ目の首の眉間に命中。
「……やったか!?」
「ハリー、あかん、横に交わすんや!!!!」
「………っっ………!!!?」
オカメの声に即座に反応し、尻尾の遠心力で身体を大きく横に捻る。
バリバリバリバリバリィィィィッッッ!!!!!
瞬間、3つ目の首が放つ『稲妻ブレス』がハリーが交わす前にいた空間を貫き走った。
「………くっっ………!!!」
稲妻ブレスの余波で身体に痺れが走る。
「ハッッ!!!!」
オカメが炎剣を横に薙ぎ、炎の斬撃を飛ばす。
飛ぶ斬撃……実際には超速による空間の切断により真空を作り、鎌鼬を発生させて斬り裂く真空の刃を標的に向けて放つというもの。故に、真空の刃に炎を乗せるという相反する属性を掛け合わせるという技術は……魔導剣士が故に成せる高等技術だ。
パキィィィィ―――――ン………
「………んなっっ………!!?」
オカメが放った炎の斬撃は2つ目の首の氷結ブレスで相殺されてしまう。
炎、雷、氷。
3つの属性を3つの首がそれぞれ操るのか……!!
「……ならば……脚を狙って動きを止めるっ!!」
俺は精神力を練り、大剣と身体に纏うと、惑わすように岩肌を跳び周り、撹乱しながら距離を詰め、左前足に全力の一撃を見舞う。
ガキィィィン………
「………うぐっっ………!!」
俺が撃ち込んだ一撃は、ヒュドラの前足にかすり傷程度のダメージしか与える事が出来ず、硬い鱗に弾かれてしまう。
何という固さだ……どうやったらこのバケモノにダメージを通す事が出来るんだ……!!?
「ハリー!!!!危ない!!!!」
「しま………ッッ………!!!?」
俺の死角からヒュドラの大木の様な尻尾が迫るが、防御が間に合わない……!!!
ドゴォォォォッッ!!!!
鈍い音が俺の身体を直撃………しなかった。
「……ガフッ………」
身代わりに直撃した大盾と共に弾き飛ばされたのは………ヨウだった。
数回地面に打ち付けられ、バウンドしながら吹き飛ばされるヨウの体は、大木の根にぶつかってようやく止まる……。
一撃でヨウの意識が刈り取られてしまった。手にする大盾も無惨に砕け散ってしまっている……
「………ヨウ!!!?くそっ……!!!!すまない……俺のせいで……っっ」
俺はヒュドラの尻尾を力任せに弾き、追い討ちをかけるように放たれた炎のブレスを大剣の腹で受け流す。
俺を護り、俺の身代わりに倒れたヨウ……。絶対に許せない……仇は必ず討つ……!!!!
だが……俺達の攻撃はいったいどうすればあのバケモノに通る……!!!?
「――――ヨウゥゥ!!!!……き……貴様ぁぁぁぁぁ!!!!」
倒れるヨウを視界に捉えたモスケが激昂する。
ヒュドラに向けて真っ直ぐ突っ込んでいくモスケ。
「ダメだ、モスケ!!お前は後衛型なんだ、無茶はよすんだ!!!」
俺はモスケに下がるように叫ぶが、怒りに自我を失ったモスケの耳には届かないのか、最前列に飛び出してしまう。
「戻れ、モスケェェ!!!!」
ゴオォォォォォォォォ!!!!!
獲物を捉えたヒュドラの首の1つがモスケに向けて炎のブレスを放つ。
「魔導障壁多重展開!!」
ヒュドラの炎のブレスがモスケが展開した5枚重ねの魔導障壁に直撃するが、4枚目の障壁を砕いたところで四散する。
ヒュドラの懐まで到達する事に成功したモスケは次の一手を興じる。
『過剰再生衝撃』
バゴォォォォォォォォォッッッ!!!!!
「ギギャァァァァァァァァ――――――ッッ!!!!!!」
モスケが触れたヒュドラの前足が抉れ吹き飛ばされ、バランスを崩したヒュドラは突然の痛みに悶えのたうち回る。
「モスケ……凄ぇぇぇ……」
過剰再生衝撃とは、聖女モッチャンが編み出した回復加護の奥義であり、その名の通り生物の触れた部分に過剰回復をかけ、細胞に許容超えの再生を強制的に促して暴発を起こす技だ。
何はともあれ、勝機を見出だした俺とオカメは再びヒュドラへと攻撃を開始する。
「俺達もまだ戦える……!!我々も加勢するぞ!!」
先見隊の2つのパーティ、『紫電来豪』『戦姫艶団』の面々もモッチャンの回復魔法で回復し、戦列に加わり始める。
このまま圧せば勝てる―――!!
―――――その油断が、このあと大きな事態に陥る事を……この時まだ俺達には知るよしもなかった。