《59..目的地へ…》
奥地に入るにつれ、襲ってくる魔獣の強さ、そして数が増えていく。
5人はその度に魔獣を討ち取っては前に進む。
気づけばもう原生林に入って3日程、進んできた。
辺りの景色も段々変化してきており、鉱石が採れそうな硬い岩盤が徐々に見えてくるようになった。
湿地も減り、少し蒸した暑さが身体の汗を誘う。
もともとチンチラは暑さと湿気に弱い。
僅かながらも疲れが蓄積し、体力を奪っていく。
「やはりおかしいですわね……。進むほどに魔獣が強く、そして多くなってきましたわ……。」
「えぇ。あれだけの魔獣が何かに怯えて逃げているのを感じるわ……いったいどれ程の強さを持った魔獣が現れたんや……。」
「Bランク魔獣……中にはAランク相当の魔獣が逃げてきてますからね……。」
Bランク魔獣でさえ街1つが致命的被害を受けるし、Aランク魔獣ともなれば国の軍隊レベルで対応しなければ太刀打ち出来ないレベルの脅威である。
「まさかAランク級が出てきたりしないよなぁ……」
モスケが不吉な事を言う。フラグ立つからやめてほしい。
「……あっ!あれ、あそこに人が倒れてます!!」
ヨウが進む先に倒れた人影を見つける。
先見隊のパーティなのだろうか。
「大丈夫ッスか!?今、回復魔法をかけるッス!!しっかりしてください!!」
モスケが急いで駆け寄ると、回復魔法をかけて治癒する。
「………うっっ……」
倒れていた剣士の様相の男は意識を取り戻したのか、痛みを堪えるように顔を歪め、ゆっくりと目を開ける。
「大丈夫ですか?」
俺は男に手を差し伸べ、手を引いて身体を起こす。
「あぁ……かたじけない……。……君達は……?
……ハッ、まずい、こうしてはおれん!!仲間がまだ戦っているのだ!!
助けてくれて恩に着る!!俺は仲間を助けに戻らねば………君達はここは一旦引け!!
アレは……アレは手に負える相手ではない!!」
男はダメージが抜けきらない身体を無理矢理起こすと、痛みを噛み殺しながら奥地へと歩を進める。
「ま、待ってください!!俺達は正式にセンターギルドから派遣されてきたんです!!貴方は調査先見隊の方ですよね!?いったい何が起こってるんですか!!?」
俺は状況を把握するために情報を求める。
精神力を感じるからわかるが、この男はかなりの実力を持っている。
その彼が撤退を促す程のヤバイ存在が、この先にあるというのか……。
「そうか……君達が期待の若手パーティだったのか。
俺は『紫電来豪』のリーダー、チィ・ユリーヴォだ。頼む、ぜひ力を貸して欲しい!!」
20代半ば程の青年で、長い銀髪を編み込み、後頭部のあたりで1つに纏めた髪型をしている。その身は和装を思わせる着物に軽装の鎧を纏っており、腰には刀が二本拵えている。一言で言えば、『侍』か。
移動しながらのお互いの簡単な自己紹介の中での話によると、彼はAランク冒険者だという。ランクで言えば、俺よりも上である。
その彼をもってしても強烈な一撃を喰らい、あそこまで弾き飛ばされたのだという。
―――――ドオォォォォォォォォン!!!!
地面が揺れ、前方の木々の向こう側に火柱が上がる。
「な……なんだ!?あれは!!!?」
聳え立つ程の大木が生い茂る更に向こう側に、木々を越えた高さまで巨大な首が3つ持ち上がっていく―――。
………あれは……デカイ………!!!!
樹海の木々を抜けると、辺り一帯がゴツゴツした岩肌で囲まれた荒野になっていた。……いや、正確には焼き払われて木々が炭化し、地盤が露になったと言った方が的確だろう。
焦げた臭いが鼻を突く。
そして……横たわる数人の冒険者達の姿が見える。
「タツヤ!! ピピマル!! コハル!!!」
チィが仲間と思われる冒険者の元へと走る。
「くそっ……『戦姫艶団』のパーティも全滅か……!!
おい!! ヨモギ!! ツクネ!! カンナ!! シロミツ!!!
……くっ……何とか息はあるが……意識が無い……!!!」
「モスケ、モッチャン、怪我人を頼む……!!!」
「了解、兄貴!!」
「わかりましたわ、お任せくださいませ!!」
俺は大剣を抜き、得体の知れない巨大魔獣に相対し構える。
巨大な三ツ首の魔獣の6つの紫色の目が、眼下に阻む俺、オカメ、ヨウを捕らえる。鰐の様に大きく裂け、真っ赤に染まる牙が並ぶ口。黒光りする鱗に包まれた全身。大地を捕らえる4本の太い脚。大蛇の様な長い首に長い尻尾を携える。
「ハリー、あれはAランクでも上位に位置する災害級魔獣、『ヒュドラ』や!!全力で行かんと逃げる事さえも叶わんかもしれん……想像を絶する正真正銘のバケモノや!!!!」
「……コイツがこの騒動の元凶か………!!?」
「……十中八九、間違いない思うで……!!でも何でこんな魔獣がこんなところに……」
「ハリーさん、オカメさん、来ます!!!」
ヒュドラの三ツ首のうちの1つが鎌首を持ち上げ、大きく口を開けると炎のブレスを横薙ぎに吐いてきた。
「………くっっ……!!!!魔導防壁展開!!!!」
ヨウが大盾を構え、俺達の前方に魔導防壁を展開し、炎のブレスを受け流す。
再び熱線で焦げる岩肌。プスプスと音をたてている。
俺とオカメは剣を片手にヒュドラへと飛び出した。