《53..新たなる勇者 ~視点:ラピ》
ある一定の区画のみの時を巻き戻す究極時空魔法『時の逆流渦』
初代勇者の一人にして『魔導学園』の創始者、時空賢者スマパスが編み出したと言われる禁呪の1つとされている。
それをなぜ学園長が……?
「……ラピ!! チャイ!!!」
消えた炎の先に、真っ黒に煤だらけになって抱き合う二人が見える。
その姿は痛々しく、目を背けてしまいそうになる…しかし、それでもアイとフウは二人の元へ駆け寄り、不得意が故の微弱な回復魔法をかける。
しかし、二人は動かない――――。
涙を流し回復魔法をかけ続ける二人をすり抜け、ラピの横に歩みより、その首にそっと赤いペンダントをかけるチラ。
「そなたにこの魔力の放出源を自分の意思で操る事が出来るようになる魔道具を授けようと錬金錬成しておったのじゃが……ちと間に合わなかった様じゃ……すまぬ。」
チラはラピとチャイを抱き寄せる。
「学園長!もう一度……もう一度、時空魔法は使えないのでしょうか!!?」
アイがチラにすがる。が、チラは首を横に振る。
「……すまぬ。時空魔法は大量の魔力を有する故、一度使用するとワシの魔力が枯渇してしまって、すぐには使用出来ないのじゃ……。
先程の『時の逆流渦』で二人の時も巻き戻したはずなのじゃが……」
「……そんな……じゃあ、二人は……!?」
「……すまぬ。」
「「嫌ぁぁぁぁ――――!!!!」」
アイとフウが絶叫する。静かな図書館に二人の声が響き渡る。
特にアイの後悔の念は想像を絶する。なぜならば、ラピ救出作成を切り出したのはアイであったし、それが原因でチャイまで悲劇に捲き込んでしまったのだから。
しかし、ここで思いがけない事が起きる。
「……これは……!?」
ラピとチャイを抱き締めていたチラの身体から赤い炎が噴き出したのだ。
ただその炎に熱量は無く、優しくもあり、暖かい。
《認証コード確認。機密キーを解錠、システム起動。神幻獣『朱雀』構築…顕現……確認。二次構築……条件未達成。代行システム起動……承認。モデル『宝鎌』顕現します。》
最奥の部屋に保管されていた巨大な赤い水晶玉が砕けて消滅し、ラピの手の中に赤い杖のような武器が握られる。
その武器の名は勇者武器―――――
『宝鎌アダマス』
すると、ラピの瞳に命の光が灯り、ゆっくりと顔を上げた。その目にはチャイの姿が。
「……チャイちゃん……」
「ラピ……!?気が付いたの!!??……でも、チャイちゃんは……もぅ……」
「大丈夫……。今の私なら……」
「………え??」
『時の逆流渦』
―――――――――カッ!!!!!!
再び眩い光が白く染め、ゆっくりと終息していく。
「……バカな、時空魔法を無詠唱で発動……じゃと!!?」
魔法とは、発動する為には詠唱を魔力に練り込む必要があり、無論、強力な魔法ほど、長い詠唱を必要とする。
それをラピは究極時空魔法を無詠唱で発動したのだ。
その魔力量に学園長であるチラでさえも驚愕する。
「……う……ん……。……ラピ?」
チャイの瞳に光が戻る。
その身体には傷1つ無い。
「「ラピ!!チャイ!!良かった……本当に良かったぁ!!!」」
ラピとチャイに駆け寄り、泣きながら抱き付くアイとフウ。
「ちょっと、苦しいよ、アイちゃん!」
「フウ、重い!重いから!おまえ、ちょっと痩せろよな!」
「あ~っ、酷ぉい、もぅタピオカおごらないぞぉ!!?」
「……くっ、それは困るな…!!わかった、わかったから乗るなって!!いたたた!!」
四人の姿を優しい目で見守る学園長チラ。
その背中には赤い翼が1対、生えており、白かった長い髪も炎の様に紅く染まっている。
「ようやく赤の勇者の誕生……か。」
長かった『赤の勇者』の眠りの時計の針が……今、再び動き出す――――――