《51..ラピの覚醒 ~視点:ラピ》
更に半年が過ぎた頃。
私のこれからの運命を大きく変える事になる、ある事件が訪れたのです。
その日も私はいつもの日課のように『ヒゲブクロ図書館』に足を運んでいました。
もうほとんどの魔術書は読破したけれど、それでも本を読んでいる時間が一番落ち着いた気持ちになる為、気付くといつも此処に来てしまっていたのです。
棚から何冊か書物を手に取り、いつもの円卓に腰掛けて本を開くと、ついつい夢中になって読者に没頭してしまいました。
そんな、手元にある最後の書物を開こうとした時でした。
《――――チイサキモノヨ――――》
「………え?」
ふと私の耳に何か小さな声が届いた。
私は顔を上げて辺りを見渡す。
今は放課後である為、私以外には誰もいない。
遠くの受付カウンターに係員が1人、書物整理作業をしているのだけど……彼女の声ではない。
今の声は、男の人の声だったから……。
私は声が聞こえた方に、そっと歩み寄っていきました。
そこは図書館内2階の『重要書物保管棚』と呼ばれる棚が並ぶ特別な部屋。1階のセンターホールから木製の螺旋階段を昇ると、廊下を挟んで、この部屋の両開き扉が存在します。
普通は許可を取らなければ入室出来ないのですが、私は既に1階の書物を読破している事もあり、特別に自由な出入りの許可は頂いてました。
《―――――チイサキモノヨ……ワガミチビキニコタエヨ――――》
声はこの部屋の最奥から聞こえてくるみたい……。
部屋の突き当たりに辿り着きくと、四角い扉があり、その扉には中心から放射状に赤い光が流れているような『呪印』が記されていました。
「何だろう、この部屋……?」
私がてをのばし、中指と薬指の指先が触れたときでした。
静かな機械音と共に、シュインッと扉が真ん中から左右に別れて開いたのです。
《―――――コッチダ……チイサキモノ―――――》
声は開いた扉の奥から聞こえてきます。
私はゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて1歩1歩ふみだし、歩を進めました。
すると、部屋の中であるものが私の目に留まりました。
「……何だろうこれ……真っ赤な水晶……?」
そこにあったのは、鳥をモチーフにした台座に乗せられた直径2m程の赤い大きな水晶玉でした。
とても綺麗……。でも、どうしてこんな場所に、こんなものが……?
《――――マッテイタ……チイサキモノヨ。ワレノチカラヲツギシモノヲマチツヅケテイタ―――サァ、ワガミチビキニコタエヨ――――》
私は何故か無意識のうちに赤い水晶玉へ触れていた。
「――――――えっっ!!!!?」
私の視界が……赤く反転して―――――
―――パキィィィン―――
私の中の何かが弾け……砕ける感覚……
そして……
「――――アァァァァアアァァァァ―――――!!!!」
私の意識は沈むように薄れていきました………
▽
▽
▽
パキィッ!!
学園長室の学園長チラの手にしていたグラスが砕け、注がれていた水が床に落ちる。
「……いかがされましたか?チラ学園長?」
職員の1人が異変に気付き、声をかける。
「――――来た……か!! 予定より随分早いな……
すまぬ、ちと急を要する故に席を外すぞ!! あぁそうじゃ、救護班を呼んでおいてくれぬか!? 頼むぞ!!」
チラはそう伝えると、フッ……と姿を消す。
「………えっ、あれっ!!?学園長!!?えぇぇぇぇ!!!?」
▽
▽
▽
「おぉーぃ、ラピ?いるのかー?」
チャイがヒゲブクロ図書館の1階でラピを呼ぶ。
「ラピちゃぁん。もうすぐ食堂行かないと学食食べられなくなるよー、早く行こうよぉ、もうお腹ペコペコぉ……。」
「もぅ、フウったら、食べる事ばっかりね。」
「あーっ、酷ぉい!アイちゃんだってお腹すいたって言ってたじゃん!」
「こら、二人とも静かにしな!……おかしいな、ラピの事だから、てっきり此処にいるとおもったんだけどな……。」
「……あら?……ちょっと二人とも……何かちょっと暑くない?」
「ん……?……あ、確かに……。というか、暑すぎない!?」
その時だった。
ドオォォォォォォォォォォンンッッ!!!!!!
2階から凄まじい爆音が響き、炎の波が噴き出してきた。
「「「――――うわぁぁぁ、火事だぁぁぁぁ!!!!!」」」
炎はうねりをあげ、瞬く間に辺りを飲み込んでいく。
多くの書物を飲み込み、灰に変えていく。
3人は火事から避難する為、炎を背に逃げ出そうとする。が、アイは振り替える瞬間、ある姿を目にした。
「――――えっ!!?ちょっと待って!!!あれ、あれを見て!!!」
アイが炎の中心を指差して二人を呼び止める。
あれは………
「「「――――ラピ!!!??」」」