《50..ラピの受難 ~視点:ラピ》
私には魔法の才能が無い―――――
その事実をどうしても受け止めきれないまま、はや一年が経過してしまいました。
学園に在籍中は寮生活になる為、兄であるチコや、育ての親であるオマツさん達にも逢えていません。
兄、チコの存在もあり、直接私に嫌がらせや悪態をつくような事はありませんが、無言の陰険な目が向けられ、肩身の狭い毎日です。ただ、そんな私にも親しくしてくれる友人達がいる事が救いです。
「あら、ラピ。今日も熱心に魔術の勉強なの?」
「はい、売店でアップルフローズン買ってきたから一緒に飲みましょ♪モグモグ」
「ふふっ、ラピは大体ここにいるから探す手間が省けるな!」
「……あっ。ありがとう、アイちゃん、フウちゃん、チャイちゃん!」
私が手にした魔術書を覗きこみ、眉間にシワを寄せて渋い顔になったのは、小柄なスタイルで、薄紅色のボブカットに赤いヘアバンドをしている、ちょっと垂れ目のアイちゃん。口元のホクロが可愛い。
既に口にお菓子を頬張ってドリンクを差し出してくれたのが、少しふくよかで、亜麻色のウェーブがかった髪が腰まで伸びていて、メガネをかけている童顔のフウちゃん。
そして、元気の良いハキハキした性格の、細身で高身長でボーイッシュな茶髪のショートヘアのチャイちゃん。こちらは中性的な顔立ちながらも、目元のホクロがちょっとセクシー。
ちなみに今、私達がいるのは、『魔導学園』に併設された、資料館を兼ねている大型書物施設『ヒゲブクロ図書館』の円卓です。
「毎日熱心ねぇ。あたしなんて、本開いた瞬間に寝ちゃうもの。」
「あははっ、私は劣等生だから……せめて知識だけはたくさん付けたいと思ってるから……」
うん、私は魔力が全く無い。
例えば、初期魔法『アイスショット』にしても水滴がポチョンと落ちるだけ。
『アースバインド』は小さな植物の芽が出るだけ。それもすぐ枯れてしまう。
『サンダーボルト』なんて静電気のようなもの。
何より、『炎』の恩恵を所持する私にとっての有利な炎魔法『ファイアウォール』をもってしても煙がポワンと出るだけだった。
授業で学んだあらゆる魔法をどれだけ放つ練習をしても、授業外でどれだけ特訓しても、まともに発動させる事は叶わなかったのです……。
「それにしても、ラピは偉いぜ!ウチはそんなに根性ねぇからなぁ。で、実際のところ、それだけ魔術書を読んでんだ、今どれくらいの知識を得てるんだ?」
チャイちゃんがドカッと椅子に腰掛け、私にお菓子を差し出してくれる。
「えっとね、もうほとんどの魔術書を読んでしまったから、300個くらいは覚えたかなぁ?」
「「「さ、300個ぉぉぉぉぉぉ!!!!??…………あっ…………」」」
3人は思わず大声を出してしまい、周りの邪見な視線が集まる。
3人は申し訳なさそうに俯く。なかなか素敵なシンクロです。
「300個って事は、時空魔法とか禁断魔法、古代魔法なんかも……」
「うん、全部覚えたかなぁ。ただ、魔力が無いから使えないも等しいんだけどね……ふふっ」
「ラピちゃん、凄ぉぉい!モグモグ……あ。このクッキー美味しいわぁ♪」
「フウ、程々にしないと、おデブになるわよ?」
「あっ、酷ぉい!アイちゃんの意地悪ぅ」
「しかしお前……もしそれ、もし全部使えるようになったら、大賢者にでもなれるんじゃねーか!? ははっ、ラピは凄ぇわ!!」
私は照れ隠しにドリンクを口にする。
そう、いくら魔法を覚えても、使えないと意味がない。それでも私は魔法を覚え続けた。いつか使える日が来れば……という期待を込めて。
「あっ、ほら、始まったわよ!!先輩達の卒業の儀よ!!」
アイちゃんが窓を開け、身を乗り出す。
「あぁ、先輩達は今日から旅立っていくんだったな。」
アイちゃんの横からチャイちゃんが顔を出す。
「あっ、見て見て!!あそこ!!モスケ先輩とヨウ先輩が答辞を読んでるぅ♪さすがエリート先輩だわぁ♪……あっ……」
「「バカ……!!!!」」
うっかりフウちゃんがエリートのフレーズを口にし、慌ててアイちゃん、チャイちゃんが制止してくれる。
私も肩書きはエリートだったから……。
「ふふっ、気にしないで、大丈夫だから。ありがとう、フウちゃん、アイちゃん、チャイちゃん!
私達も四人揃って、先輩達みたいに一緒に卒業しようね♪」
四人はニッコリ笑顔で同時に頷いた。