《43..特別カリキュラム①》
「うむ……さて、この辺でいいかな。」
街の外れの森林広場に連れられ、二人の影が肩の荷を下ろす。
まだ朝も早い事もあり、街にはまだ人通りが少なく、建ち並ぶ店も開店準備で殆どの扉はまだ開いていない。ただ、焼きたてのパンの香りが風に乗って鼻を擽る。
その街路地を抜け、しばらく街外れの方へと進む事で、今二人が立つ森林公園へと通ずる。
街外れとはいえ王都の外に出るわけではないので、見上げた先には聳え立つ城壁がしっかりと見下ろしていた。王都はこの城壁によってしっかりと護られている。
朝陽が木漏れ日となって、二人を優しく照らす。
そのうち1人がニヤリと笑い、口を開く。
「……さて、先ずは君の実力を測る為に、1つ手合わせしてみようか。」
細身の長剣を鞘のままで構える。
その長剣を支える身体には、いつもの全身鎧に包まれておらず、白いシャツを着崩して着ており、その胸元には褐色の艶やかな谷間が覗き、着ているシャツを大きく押し上げている。下半身はピッタリと張り付くようなパンツがそのメリハリのあるラインを強調している。
凛々しく姿勢良く立つ勇姿。女も見染めるような褐色の美貌の女騎士、王国聖騎士団副団長、サクラであった。
彼女はもともと武器商人の娘であったのだが、武器を売るよりも扱う事に魅力を見出だし、騎士の道を選んだという生粋の武器マニアでもある。好きなものはイチゴパフェ。愛読書は『週刊nonnon~恋する乙女』である事は内緒の話。
「さぁ、どこからでもどうぞ、かかってきなさいな。」
一方、もう1人の方も、一切物怖じせずに、片手に鞘のままの細身の長剣を斜に構える。
「てっきりアタシにはチコさんが当たる思てたんやけど……流石は副団長や……その隙のない構え……間違いなくアタシより格上なんは分かる……。
でも、アタシは今よりも強くなりたい……!いや、なってみせる!だから、いっちょ御指導よろしゅう頼むわ!」
サクラの指導相手は、オカメであった。
オカメは一気に全身の闘気を解放する。
森林公園の木の葉が激しく揺れ、ガサガサと音を立て、オカメを中心に風が流れる。
「ふふ、凄い闘気だな。流石は『薔薇の戰乙女』と呼ばれるだけはある。………だが!!」
「――――っっ!!?」
ユラッとサクラの身体がブレたかと思った次の瞬間、サクラの剣がオカメの肩筋に迫っていた。
一瞬、消えたのでは無いか…と錯覚する程のとてつもない速さだ。
それを間一髪しゃがんで交わすと、すかさずサクラの足を払う様に剣を横に薙ぎ払う。オカメの速さも負けていない。
が、サクラは一歩引いてそれを交わし、右上から袈裟に剣を振り落とす。
オカメは払った剣を返す太刀筋で打ち合げ、そのサクラの剣を剣の腹で受け止める。
そして剣と剣が交差したまま、ギリギリと押し合う。
「ふっ…ふぎぎっ……流石は聖騎士団副団長……化け物並みの速さと強さ……やなぁ……!!」
オカメの剣がじわじわと、だが確実に押し込まれていく。
「ふっ、乙女に対して化け物呼ばわりは頂けないぞ?……だが、流石は噂に聞く『薔薇の戰乙女』だ。剣の腕も太刀筋も悪くない。……が、いかんせん圧倒的に力が足りないな。
それでは本当の厄災クラスの魔獣には剣が通らぬぞ?」
「あうっっ……!!!」
サクラは剣を押し払い、オカメを弾き飛ばす。
ゴロゴロと地面を転がり、仰向けに横たわる。
その剣を握る手はサクラの剣の衝撃を吸収しきれずに、震えていた。
「うっ……くっ……!!な、なんて剣圧やの……!!」
オカメは剣で身体を支え、立ち上がる。
「オカメ殿。君の剣速は、おそらくは既にSランク冒険者にも遜色ないものであろう。流石と言わざるを得ないレベルにあるのは間違いない。だが、それだけではダメだ。君には先程も言ったが、剣を振るう上での寸断力が足りないのだ。
勿論、身体を鍛えれば筋力で力を発揮するのは可能なのだが、君は華奢な女の子の体付き故に、いくら鍛えたところで筋力はそこまで望めまい。」
「……くっ……、」
オカメは顔を歪める。
それは、オカメ自身、身に染みて分かっていた事であった。
女の身体である自分には圧倒的な筋力が足りない。故に剣を押し切れるだけの力が自分には備わっていないのだった。
サクラは、言葉を続ける。
「ならばどうするか?
それは簡単な事だ。君は『魔導剣士』の加護を持つのだろう?更には『炎』の恩恵を所持しているはずだ。
君は『魔導剣士』は魔法を使える剣士だと勘違いしているんじゃないか?
まぁ、それも半分間違っていない。
だが、残りの半分は間違っている。それを見せてやろう!」
サクラは自分の長剣に手を添え、剣身の柄元から剣先へと掌を滑らせ、魔法を発動する。
「――――地を流れ空に舞い岩を切り裂く風の精霊よ!我が呼び声に応え顕現せよ!我が剣に纏え!『風神剣』!!!」
ヒュゴオォォォォォォォォ!!!!
サクラの剣が明らかに変化する。
その手に握る剣に、風が纏われていたのだ。
「剣に……魔法を纏っ……た……?」
「そうだ。これが『魔導剣士』たる由縁、魔法を剣に付加した『魔導剣』だ。
私の持つ『風』の恩恵により、風の魔法を剣に乗せたのだ。
どうだ?『聖騎士』のジョブで、『ホワイトナイト』の加護である私でもこのくらいは出来る。
君の『魔導剣士』の加護は、この専門職が故に威力はコレの比ではないぞ?
いいか、君にはコレを戦いの中で自在に操れるようになってもらう。」
「あは…あははっ♪……確かにその手は思いつかんかったわ……。
にひひっ♪その技、何としてでも自分のものにしたるわ!!!」
オカメは力強く地面を蹴ると、サクラへ向かって剣を振るう。
オカメの特別カリキュラムは、こうして始まったのだった。