表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/316

《41..店の客は店を護る》

ガシャァァアン!!!


突然、何かがひっくり反る音が店内に響いた。


「……っっ!!!このガキィ、何しやがる!!!」


いかにも因縁つけそうな面構えの男の声が響き渡り、店内に静寂が訪れる。

立ち上がって苛立つ男の太股あたりにソースがべっとり付いている。

ひっくり反った料理のソースが飛び散ったのだろう。


「あぅぅ……ごっ…ごごご…ごめんなさぃぃぃ!!」


小さな女の子が謝りながら、慌てて布巾でソースを拭き取ろうとする。


「おぃおぃおぃ……謝って済む問題じゃねぇぞぉ!?この服、いくらすると思ってんだぁ!!?ぁあ!!?弁償だぁ、弁償!!!お前らも見てたろぉ!!??このガキが俺様の服にソース引っ掛かるところをよぉ!!?」


「ぎゃっはっは、ちげぇねぇ!!!確かに俺も見てたぜぇ!!??アニキの服にべっとりソースを引っ掛かるところをなぁ!!!」


「そ、そんなぁ……どどど……どうしよう……ぅうう……」


やはり見た目通りのチンピラだ。


女の子は今にも泣き崩れそうだ。小さな体が震えている。



――――チンピラは四人……やるか!!?流石に頭に来たぞ……!!?


「まぁ、待ちな。大丈夫だ、見てな。」


怒りで立ち上がろうとする俺の肩をチコが抑える。




「……おらぁ、泣いても許されるわけじゃねんだぞ!!?とっとと………っえ!!!?」


さらに息巻くチンピラだった……が、気付くと店内の客のほぼ全員がチンピラ四人を取り囲んでいた。


「……おぃ、チンピラぁ。お前、この娘の足を引っ掛けて転ばすの見てたぞ?この店で……しかも子ども達にイチャモンつけるたぁ、いい度胸じゃねぇか。」


「テメェら、他所もんかぁ?この店はなぁ、俺達の大切な場所なんだ。落とし前、どぅ付けてくれるんだ?あぁ!?」


「お嬢ちゃん、怪我は無いか?」


「あ、あい、ありがとうございます……ふぇぇえええん」


女の子は男達に抱き上げられると、安心した事により我慢の関がはずれたのか、泣きはじめてしまった。


客の1人1人は、それぞれ職人だったり、冒険者だったり、憲兵だったり……と、この街の中でも特別屈強な男達ばかりで埋め尽くされている。

男達にとって此処は一日の疲れを皆で騒いで吹き飛ばし、また明日に景気よく繋いでいく、大切な場所。

それがこの店、『まつぼっくり』なのだ。


その『まつぼっくり』でお手伝いをする子ども達は、その皆の息子であり、娘であり、大切な宝なのである。

チンピラ達はその逆鱗に触れ、男達の怒りを買ったのだ。


「ひっ……ひぃぃぃぃい!!!!何なんだ、この店はぁ!!?

……ちょ、ちょっと待っ………ぎぃやぁぁぁあああぁぁああ!!!!」


四人はコテンパンにノされ、店内から這う様に飛び出して逃げていく。



「は……はは……」


俺は胸が熱くなるのがわかった。


「だっはっは!な?大丈夫だったろぅ。」


「は、はぃ、ですね!」


「にひっ、店の客が店を護る…って、何かえぇなぁ♪」


「さぁ、呑み直そうか。よし、君達に俺がおごろう!!じゃんじゃん呑んでくれ!!オマツさ……ん、はいないか。おっ、そこのお嬢ちゃん、イェール3つ、こっちに頼むよ。」


チコが近くを通った店の女の子にオーダーを入れてくれる。


「ん?そういえば、貴殿の名前を聞くのを忘れていたな!昨日も確か貴殿はオカメーヌちゃんと一緒にいたな。貴殿らは恋人同士なのかな?」


「……えぇぇっ!?」


「いやいやいやいや、アタシ達は……そんなんじゃ……」


オカメが電動歯ブラシみたいに超速で首を振って否定した。

それはそれで何か気持ち何か凹む。



(今は()()……そんなんとちゃうもん……)



「ん?オカメ、何か言った?」


「……んひっ!?いやいやいや、何も言うてへんで!っっ、あっ、アホか!!!」


再び凹まされた。

何だろう、告白する前に振られたような、この変な感じ。


「あー、その、なんだ……すまん。」


「ははは、いえ、気にしないでください。

あっ、そうだ、名乗るの忘れていました。

俺はハリーといいます、宜しくお願いします!」


「……んっっ!?」


「……へ?」


名乗った瞬間、チコの眉が一瞬、ハの字になった。

しかし、直ぐにチコはニヤリと口の端をあげ、口を開く。


「……そうか、貴殿がハリー君か。なるほどなるほど。

ふふっ、ハリー君、楽しみにしておくといい。()()()()()!」


「……えっ?」


そう告げると、残ったイェールをイッキに飲み干した。そして、大きな身体を揺らし立ち上がると、背中越しにこちらへ右手をひらひらと振りながら、店を後にした。


「また、逢おうって、いったい……?」


俺はデッカイはてなマークを頭に乗せ、首を傾げるのであった。


横に目を向けると、下に俯くオカメと、何か知らんけど、ニタニタと気持ち悪い笑いを浮かべるコアラがいた。


(オカメ、イェールでかなり酔ったのかな?顔が真っ赤だし)



居酒屋食堂『まつぼっくり』から少し離れた裏路地に差し掛かったところで、先ほど店を出たばかりの男が()()()()()()()()



「だっはっは。やはりオマツさんには敵わんなぁ。」


気絶する程に頬を張られたであろう四人のチンピラがロープで1つに縛られ、その足下に大きく『天誅』とかかれている光景が、そこにあったのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ