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《40..オマツと子ども達》

凱旋パレードを終え、装備屋へオーダー品を引き取りに行ってからは、結局ギルド依頼を受ける事はせずにのんびり過ごしていた。


幸いにも今はまだお金は(オカメ預金の中に)あるし、冒険者ランクの手続き期間でもある為、変に動かない事にした為だ。


そして日もすっかり落ちた今は宿兼居酒屋食堂『まつぼっくり』のバーカウンターに座って食事をしている。勿論、隣にはオカメが、膝上にはコアラが座っている。


「……ふわっ、このクコの実ピッツァ、めっちゃうんまぁ!!」


「このタンポポの葉のバターソテーも最高に美味い!!」


《ぶほほへ、ぼほぶふぁっ》


「えっへ~~、嬉しいわぁ~~。たくさん作ってあるから~~、たくさん食べてねぇぇ~~♪」


オマツさんの料理は、びっくりするほど美味い。


膝のコアラが口に目一杯頬張って食べ散らかし、俺の膝元がびっちゃびちゃになるくらいに美味いのだ。


そう言えば気付いた事がある。


お店の中では、配膳や接客、はたまた厨房に至るまで、何故か子供の姿がちらほら見えているのだ。

しかもなかなか手慣れたもので、大人顔負けの見事な手際の良さを見せている。


「あぁ、それはやなぁ……」


「話の途中失礼する、隣空いてますかな?」


「あぁ、空いてますよ、どうぞ。」


「かたじけない。」



オカメが話し始めた時、俺の隣の空き椅子に別の客が腰掛けた。


「オマツさん、いつもの頼めるかい?あぁ、あとイェールもジョッキで頼む。」


「はぁ~~ぃ、帰ってきてたのねぇ~~♪すぐ用意してくるわねぇ~~」



今日も店内は大繁盛しており、わいわいと賑わっている。


《もぐもぐ。うまうま。おぃ、ハリー、そのチモ団子をもう1つ取って……く……れ………ふがっっ!!?》


コアラが突然フリーズした。

顎が外れたように限界いっぱいに口を空けて、豆みたいな眼球が飛び出すんじゃないかと思うくらい見開いている。


「どうした、コアラ?新たな美顔の顔面体操か?」


《あががが……ハリー……隣、隣を見てみろ………》


「隣?何かの振りか?いったい何だっ……てん……だぁぁぁ!!!!??」



変顔コアラに促され、ため息まじりに隣に腰掛けた客の男を横目でチラ見して、俺もコアラと同じ顔でフリーズしてしまった。


俺越しに隣の客を覗いたオカメがその客の男に気付いた。


「あら、チコ団長。」



そう、隣に腰掛けた客の男は、朝方パレードで見た、あの王国聖騎士団団長、チコであった。

今は流石に仕事時間外なのであろう。あの鎧姿ではなくラフな格好であった為、すぐに気付く事が出来なかったのである。



「ん?……おお!?君は!!オカメーヌちゃんだったかな?

いや~、朝は大変失礼した!!!あまりにも貴殿が()()()に似てたものだから……思い出しただけでも恥ずかしいな!!」


「オカメでええですよ!全然気にしてへんし、気にせんとってくださいな。

ふひっ、そかそか、アタシに似た妹さんかぁ。ぜひ逢ってみたいわぁ。」


「だっはっは!おそらく妹も喜ぶであろうな!今は寮に入っておるから、そのうち折を見てここに連れてくるとしよう!」


「にひっ♪楽しみにしとくわぁ。

……って、チコ団長は『まつぼっくり』の常連なん?聖騎士団の御偉いさんが城下町に降りてくるの、珍しいいうか……」


「あぁ、それはだな……」


「はぁ~~ぃ、チコちゃん、お~ま~た~せ~~。特製チコ定食よぉ~~♪」


オマツさんが、めちゃくちゃデカ盛りの器を持って厨房から出てきた。

料理が皿からはみ出るくらい……いや、実際はみ出ているな?あれ……。ソースが皿の外側に垂れまくっている。


「……っと、だっはっは!待ちかねたオマツさんの料理だ!!今まで食べてきたいろんな店の飯よりも、やはり俺は()()()()()オマツさんの飯が最高だわぃ!!ガツガツガツガツ」


団長チコは我慢出来ないとばかりに一心不乱に料理にがっつき始めた。


「あらあら~~、よく噛んでたべなきゃ~~ダメよぉ~~?」


コトリと、団長チコの前に冷えたイェールと水を置き、豪快に料理を食べる姿をニコニコと優しく眺めるオマツさん。

みるみるデカ盛り料理が消えていく。


あれ?二人の関係って……


「……ぷはぁ!!いやぁ、上手かった!!あぁ、そう言えば話の途中であったな。

ぶっちゃけると、俺と妹は()()だったのだよ。そして、そんな俺達を引き取り、育ててくれたのがオマツさんなんだ。

オマツさんは俺達の母親がわりなのだよ。」



物凄い事実をサラッとぶっちゃけられた。



「チコ団長が……孤児!?」


「そうねぇ~~。あれは雨の中、まだ小さかったチコちゃんが、幼い妹のラピちゃんを背負って店の軒先に佇んでてね~~。二人とも今にも倒れそうなくらい衰弱してたのに、この子は懸命にラピちゃんを護ろうとしてたの。わたしはお店を閉めて店内に入れてあげたのよぉ。


空きっ腹にいきなり御飯を押し込むのは良くないからぁ、まずは暖かいスープとお粥を出してあげたの。そしたらねぇ、この子は自分の分もラピちゃんに与えてぇ、更に助けてくれた御礼がしたいから、雑用でも何でもさせて欲しいって言うの。まだ小さい子どもが……よぉ?

あたしは気付いたらこの子達の親代わりになってたの。うぅん、親代わりになってあげたかった……。

それからねぇ~~、孤児を引き取って育て始めたのわぁ。」


孤児を引き取り始めた……?


「あっ、それでお店の子ども達って……」


「そぅよ~~、みぃんな可愛い、あたしが引き取った、あたしの子ども達よぉ~~♪」


「オマツさんは、店の裏にある孤児院の院長さんなんやで。」




――――オマツさんは、宿主兼、飲食店店長兼……孤児院院長だったようです。





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