《39..回想② ~視点:モッチャン~》
「モッチャン!!ここにいたか!!」
司祭長に続き、お父様、お母様が駆け込んでいらっしゃいました。
その表情は青ざめ、ただ事では無い様相でした。
余程大事な羊羮……
「今すぐ司祭服に着替えて、王都へ走れ!!この国の…いや、この世界の破滅の危機だと…陛下へ御伝えして欲しい!!!
悔しいが、この父、母を除けば、お前が1番足が速い…!!!
我々はユーミ一族の血を絶やすわけにはいかんのだ!!!御神体を護り、今すぐここを発て!!!!」
お父様は切羽詰まったようにわたくしに御神体を手渡し、背中を押して王都へ発つように促されました。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ、お父様!!!」
「ならん!!民の命運がかかっておるのだ!!!さぁ、早く!!!」
「ですがお父様……」
「何だ、父や母の事は心配するな!!必ずやあの化け物を討ち取ってくれるわ!!」
「……いえ、そうではなくて……まずは服を着させて下さいませぇぇぇ……」
わたくしは今はまだ、泉で身体を清め、礼服を着る前のスッポンポンなのですわ……
「…あー…その……すまぬ。」
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わたくしは父より預かった御神体『神杖ケーリュケイオン』を手に、王都へ続く街道を全力で駆け抜けました。
背後から響く悲鳴……
建物が破壊される音……
炎が燃え上がる音……
私の愛する大切なものが悪しき者に蹂躙されていく……
耳を塞ぎたくなる……涙を流したくなる……でもそれを寸でのところで堪え、ただひたすらに走りましたの
「どうか御無事で……」
そう心で叫んだ時、目の前に『奇跡の光景』が広がりましたのです。
王国最強と謳われる騎士団の姿が、そこにありましたのです。
わたくしは事の成り行きをチコ団長を始め、チクワ副団長、サクラ副団長にお伝えすると、
「―――任せろ!!!―――全軍、左へ展開!!!目標、ユーミ神殿へ進撃!!!」
「「「おぉぉ―――――!!!!!」」」
王都へ帰還する予定を変更し、すぐさまわたくしの故郷へと進撃くださいました。わたくしはチコ団長より護衛を数名付けて頂き、そのまま王都へ向かい報告を頼むと仰せられました。
そして道中に起こった響き渡る化け物の咆哮――――
大気の震えが突き抜けていく。
「お父様!!お母様!!どうか…どうか死なないで……!!!!神様……どうか……どうか皆をお救いください!!!
―――私に…私に皆を救う力さえあれば――――」
そう願いを込めた時、わたくしの手にした『神杖ケーリュケイオン』が願いに応えるように目覚め、『蒼い閃光』として化け物を討ったのです。
『神杖ケーリュケイオン』はその意志を継ぎし認められた勇者にのみ力を与えると言われる『勇者武器』。
かくして『稀代の勇者』としての使命を背負う事になったわたくしは、そのまま国王陛下に『天燃ゆる厄災』の事の全てを御報告させて頂き、同時に『稀代の勇者』としての『公認の儀』が執り行われました。
これにより、名実共に『稀代の勇者』となったわたくしは国王陛下より王都への拠点移住を承り、一度『ユーミ神殿』へと帰還し、両親と司祭長へ『稀代の勇者就任』の報告と上京の挨拶を済ませました。
お母様と司祭長……泣いておりました。
それが別れの涙なのか、勇者就任の喜びの涙なのかは……わたくしにはわかりませんでしたの……。
そして上京の準備が整う頃、丁度、街の復興に目処が付き始めたという事で王国聖騎士団の方々も王都へと凱旋なさるという事でしたので、わたくしも同行させて頂く事に致しました。
「お父様、お母様……。行って参りますわ!!」
こうしてわたくしは王都へと上京したのです。
――――あっ、いけません、司祭長への挨拶を忘れてきてしまいましたわ……でも、またいつか……それまで生きていて下さいませ、ばぁや♪
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―――イッキシ!!!
「司祭長、風邪ですかな?」
「いえ、大丈夫ですわ。あらやだ……何方かが噂でもされたのかしら?
………あれ?戸棚に隠していた私の楽しみにしていた羊羮が……?
……ハッ!まさか……」
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道中、高級羊羮を口に頬張り恍惚の表情を浮かべるわたくし。
(あぁ……形はどうあれ、わたくしも自由を手に入れましたわ。憧れた素敵な殿方との逢い引きの夢……叶うといいな♪)