《03..魔獣》
さて、出口はどっちだろう。
私…もとい、俺はぐるりと周りを見渡す。
「あれ?洞窟内で薄暗いはずなのに見えるぞ?」
辺りに灯りは無い。人工物では無いのだから照明なんてあるはずもない。
なのに、周りがはっきりと見えるのだ。
もしかして、俺が獣人で、チンチラである『ハリー』の生態能力を受け継いだのだろうか?
チンチラは夜行性故に、夜でも目がよく見えるのだ。
《すまんがオイラは暗闇だとはっきりと周りが見えんのだ。オイラを担いでいってくれないか?》
コアラのくせに。
「仕方ないなぁ、わかったよ。」
俺はコアラを頭に乗せ、自分の尻尾を股に潜らせ、両手で胸の前で抱いた。
薄暗いとはいえ、流石に素っ裸は恥ずかしかった。
「どっち方向に進もうか…。確か洞窟は1つ判断を謝って迷い込むと、二度と戻ってこれなくなるんだっけ…。」
手がかりも情報も無い以上、勘で進むしかない。とりあえずこっちに真っ直ぐ行ってみて、行き止まりになったら右側の壁に沿って進もう。
確か生前、迷路を攻略するには、この方法が良い…という話を聞いた事がある。行き詰まったらそのまま戻ってくればいい。
「よし、行くか!」
直感で進む方向を決めると、歩き始める。
とにかく外に出ない事には何も始まらない。水は所々に湧水があるので問題ない。だが、食料が問題だ。食べなきゃお腹が減るし、また飢えで命を落とすのも御免だ。洞窟の中だと木の実どころか植物さえ生えていない。あるのはヌメッとした、苔の様な物が岩に張り付いているくらいか。流石にこれを食べようとは思えない。
それに、今はナイフ1つ持ってないので、蝙蝠みたいに洞窟にいそうな動物を仕留めて食べる事も出来ない。まず火も持ってないし、生肉では食べたくない。生肉食べて下痢になってもお尻拭く紙も無いし。
「……あれ?そういえば……」
動物…で思い当たる疑問が出てきた。
《ん?どうした?》
「動物でふと思ったんだけどさ」
《うん?》
「さっき、勇者がどうとか言ってたろう?」
《うむ。それがどうかしたのか?》
「この世界に勇者がいる…という事は、勇者たる者が存在するべき意図があるのだろう?という事は、勇者が戦うべき存在もあるんじゃないの?つまり…もしかしたら、この洞窟の中にも……」
《あぁ、勿論いるぞ?魔獣ならほれ、今、あんたの後ろに》
……………は??
俺は恐る恐る、ゆっくりと後ろを振り返ると、確かにいた。
モグラに似ているが、明らかに凶暴そうな生物が3体いた。その目は赤く、口先から何か粘っこい物を垂らし、両前足に付いている鎌爪を此方に向けて、ヨタヨタと近づいてきていた。
そうならそうと早く言え――――――!!!!
「嘘ぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!ぎゃあぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」
俺は勢いよく逃げた。それはもう、一生懸命走った。
ピュンピュンと、飛ぶ様に走った。
どっちに向かって走ったのかもわからない。
とにかく逃げなきゃ殺される!!!!