《38..回想① ~視点:モッチャン~》
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▽ 視点 《モッチャン》
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わたくしは格式高い『ユーミ神殿』の長女として生を受けましたの。
『ユーミ神殿』とは、切り立った山々や森、泉に囲まれた自然豊かな辺境の中に聳え立つ『大聖堂』を中心とし、その大聖堂を取り囲む様に使徒達の街並が広がっている街の総称ですわ。王国の最重要拠点の1つでもありますの。
この街の最高指導者であるお父様『大神官タイサ』と、大聖堂最高責任者であるお母様『聖母イチゴ』の実子でもありますが故に、いづれはこの街を背負って立つという決められた人生を歩む事がわたくしの運命。
幼き頃より『聖女』として祭られ、来る日も来る日も聖なる泉で清められた身体を高貴な礼服に身を包み、祭壇に立っては、朝早くから訪れる街民や信者の祈りに応え、微笑みで祝福を捧げますの。
そして祭壇の先に奉られた『御神体:神杖ケーリュケイオン』の元へと歩み寄り、両膝を突いて手を組み、祝詞と共に祷りを捧げる……これがわたくしの朝の一連の流れですわ。
「おぉ…聖女様…此度もなんとまた美しい事か……」
「眩いばかりの後光がなんとも言い難い神々しさ……ありがたい事です……」
「あの華のような屈託の無い笑顔……心が洗われまする……」
「はぁぁ……ありがたや、ありがたや」
後光が差しているように見えるのは、朝日が背中側から上ってるからですよ……とは、口が裂けても申し上げられません。
わたくしが美しい?
はい、存じております。確かにわたくしは美しさしかございません。
あ、いえ、けして自惚れではありませんのよ?
だって、わたくしは『聖女』だという理由で『魔導学園』へは編入させて頂けませんでしたもの……殿方との接触が無粋なのだとか。それ故に学問に疎く、全く自信が持てません。世間の常識というものにも疎い自覚もございますし…。
可愛い弟のモスケは幼馴染みのヨウちゃんと一緒に『魔導学園』へ入学致しましたというのに……ズルいですわ……。
それ故に魔術の心得は全て大聖堂の司祭長(お母様に次ぐ権威を持つ)によって学びましたの。
でも、わたくしは7歳で司祭長が使える全ての魔法を学び尽くした時には司祭長が咽び泣いておりました。
7歳程度で極める事が出来る事など、世間の同世代の方々には学力では到底叶いません事でしょう……。あら?……という事は、司祭長はわたくしの同世代よりも実力が劣るという事なのかしら?いやいや、そんな……
「私は齢70年かけて習得した魔術の全ての心得を…僅かたった7歳で……私の70年とはいったい……まさか7歳で極秘魔法《天使の大翼》までマスターするなんて……」
……と、司祭長は喜んでくださいましたけれど…。
そんなわたくしも16歳になり、大聖堂の神職を次ぐ歳になりましたの。
弟は今年に魔導学園を卒業し、いづれはお父様の跡を次ぎ『大神官』になり、わたくしはお母様の跡を次いでいづれ『聖母』になるのです。
思い返せばわたくしはこの大聖堂からほとんど出る事なくここまで生きて参りました。
勿論、お父様もお母様も、とても愛しております。そして毎日訪れる街民の方々や信者の方々の事も大好きですわ。お供え物もたくさんくださいますし、おいしいお菓子もたくさんくださいます。いえ、物に釣られているわけではございませんのよ?本当にわたくしの大切な家族ですもの。
ただ…1度だけ……そう、たった1度でいいのです……。
1度でいいから、殿方と逢い引きというものをしてみたかったですわ……。
先日ヨウちゃんから密かに頂いた『月刊アイビキテビキ』の特集に載ってました『すいーつ』のお店にも行ってみたかったですし……『ふぁっしょんしょっぷ』にも行ってみたかったですわ……。
でも、それもまた夢……。
わたくしは神聖なる『ユーミ神殿』に生まれた『聖女』なのですもの。
そして本日も日課となる御神体への祷りを捧げる朝が訪れるのでした。
――――しかし、この日は違ったのです。
「聖女様!聖女様――――!!!」
いつものように泉で身体を清め、礼服を纏おうとしていたところに、いつも以上に難しい顔をした司祭長が駆け込んで参りました。
「どうしましたの?ばぁや。……ハッ!まさか、密かに隠されていた羊羮をこっそり食べてしまった事がバレてしまいましたの!?」
「いつも申しておりますが!私は貴女様の『ばぁや』になった覚えはございません!!
………ハッ!いえ、そんな事よりも、大変な事が起きたのでございます!!
あの、あの『天燃ゆる厄災』が現れたのですっっ!!!!」
―――――てっ……『天燃ゆる厄災』が………!!!!??
―――――って、何ですの?