《36..聖騎士団長チコ》
「――――え?」
時間が止まったかのように動きを固めるオカメ。
ラピって誰だ?
「チコくん、この娘はオカメーヌちゃんよ♪そうねぇ、『薔薇の戰乙女』と言った方が分かりやすいかしら?」
オチヨさんが後ろから声をかけてきた。
オチヨさん、聖騎士団長の顔馴染み?……まぁ、同じ王都に住む御偉いさん同士なんだから、そういうものなのかもしれない。
「ラピちゃんなら、まだ魔導学園で授業中じゃないかしら?……確かに似てるわね……でも、全くの他人よ♪全く、いつまでたってもおっちょこちょいなんだから。うふふ♪」
「ぬぁぁっ!!こ、これは失礼した!!勘違いしたようだ、これは恥ずかしいぞ!!申し訳ない、本当に申し訳ない!!」
厳格に見えた団長チコがあたふたして目が泳いでいる。耳まで真っ赤っかになっている。
あれ、この人、めちゃくちゃ憎めない人なんじゃん。
「全く…貴方という人は……」
副団長チクワがノッシノッシと歩いてきた。めちゃくちゃデカイなこの人。
鎧の上からも鍛え抜かれた筋肉の盛り上がりが見て取れる。
その目に気付いたのかわからないが、ムキッ!!と筋肉を膨らませた。
満面の笑みで。……ちょっと引く。
「団長、そろそろ行かないと……」
もう一人の副団長サクラが遅れて駆け寄ってくる。
こちらも女性とはいえ、鎧から漏れる肉体は褐色の肌が引き締められており、張りのある艶やかな体つきをしている。括れた腰にキュッと締まったお尻に太股、それでいて胸は大きい。実にけしからん。
いや、オッサンか俺は!!
「あぁ、すまない、行こうか。
オチヨさん、それから…オカメーヌ殿、失礼した!!この失態の詫びはいづれまた……では!!」
「うふふ、チコ君、またねぇ♪」
聖騎士団長チコと副団長達は1つ会釈するとその身を翻し、魔獣に跨がると再びパレードを進め、城の方へと軍を進めていったのだった。
「聖騎士団長チコさんかぁ……おもろっ♪」
俺とオカメは二人、クスクスと笑う。
「兄貴!!すげぇッス、騎士団長をあんな近くで見られるなんて…感激ッス!!」
ふと気がつくと、横にはモスケとヨウが来ていた。
聖騎士団長達とのやり取りを見て、自分達も近くで見たくなったらしい。
「……ん?……あれ?」
パレードも終盤を迎え、聖騎士団の最後尾が見え始めた時、モスケが何かに気付き、言葉を漏らす。
「……えっ……?……姉ちゃん!?」
最後尾に着いていくように、聖騎士団とは別の旅団の姿があった。
魔獣に引かせた幌付の客車を四人の騎士が護衛している。
その客車には、一人の女性が腰掛けている。
歳は俺と同じくらいだろうか?
透き通る様な白い肌を長い銀髪が流れ、その身を青色を基調とした司祭服に身を包んでいる。とんでもない美少女だ。
肌の露出は少ないものの、身体の凸凹は主張する所は目一杯主張し、控えるべき所はしっかり自嘲している。
なんなんだ、この世界の女性達は!!
実に、実にけしからんではないか。
元、女である私の心は既に虫の息よ!?
この超絶美女を、さっきモスケは『姉』だと言った。
――――異母姉弟か?…と、モスケの顔を横目で見た。
「………兄貴、今、めちゃくちゃ失礼な事を考えなかったすか?」
モスケが異常な勘の良さを発揮した。