《33..飛び級で》
今日も朝早くからギルドに顔を出している。
少しでも多くのギルド依頼を消化して、上のランクに昇格する為だ。
ただ、今はオカメがギルドマスターに昨日の状況の報告に行っている為、『薬草採集依頼』については受領保留状態になっている。
そんな感じで待合ソファでオカメを待っている状況なのだ。
しかし、それはまだいい。
今、昨日までとは明らかに違っている事がある。
それは……
「ハリーの兄貴!!おはようございます!!このモスケ、何処へでもお供しますぜ!!な、ヨウ!?」
「モスケぇ……恥ずかしいからやめてぇ……」
……何故かモスケがなついてしまった。
相変わらず朝から元気がいい。良すぎて声が頭に響く。
いわずもがな、ギルド内の冒険者達の視線が俺に突き刺さる。
「俺、兄貴の強さに痺れたっすよ!!自惚れてた自分が恥ずかしいッス」
いや、恥ずかしいのは今の俺の方なんですけど……?
暫くして、オカメが戻ってくる。
「ハリー、ちょっとえぇか?マスターが呼んどるで。あ、あと、丁度よかったわ。モスケとヨウの二人も一緒に来てもろてえぇかな?」
「……えっ、俺?」
「オカメの姉貴!!俺達も…ッスか!?し、しかもギルドマスターに!!?」
「どどどどうしよう……昨日の事で、ももももしかして私達……首???」
ヨウは今にも泣き出しそうだ。
「あぁもぅ、ちゃうから、泣かんでえぇて。とにかくマスター呼んどるから行くで!!」
「……は、はぃ……」
俺達3人はオカメに着いていく形で執務室の前に進み、扉をノックする。
……トントン。
「どうぞー。」
「……失礼します!!」
扉を開けると、黒塗りの幅広いデスクの向こうにギルドマスターのコテツさんが両肘を付いて椅子に腰掛けていた。
その左脇には奥さんの受付嬢オチヨさんが綺麗な姿勢で立っている。
つまりは、ギルド内のツートップが俺達を待っていた。
何か緊張するなぁ……あのブラック会社の面接を受けた時依頼だな……。
「マスター、連れてきたで。」
オカメが横に1歩引き、俺達3人は1歩前に出る。
「どうも、ハリーです。」
「もっ、モしゅケでしゅっ」
「よ、よよよ…ヨウです……」
モスケが緊張で噛んだ。
ヨウに至ってはガッチガチになりすぎて目が泳ぎまくっている。
「やぁ、呼び立ててすまないね。ま、肩の力を抜いて☆リラックス、リラックス☆オジサン、取って喰いやしないからさぁ☆」
「うふふ、そうよ、悪い話をするわけではないから♪ねっ」
二人はニッコリと笑顔で応えてくれる。
「君達を呼んだのは他でもない。オカメちゃんから話を聞いたよ。不測の事態での対処とはいえ、君達一人一人があのガルファングを倒したそうじゃない。あれはCランクに該当する魔獣だ。
それはつまり、君達の力はCランクの実力を持っている事になる。
よって、つい昨日新人登録したばかりなのは承知の上で、俺っちの独断で君達のランクアップをしたいと思う。受けてくれるね?」
―――――はぃ?
ギルドマスターは、手元の資料を捲りながら、淡々と話始める。
「まず、モスケ君。君は今季、魔導学園を上位の成績で卒業している。何よりも、あのユーミ神殿の正当後継者であり、素質も申し分ない。
次に、ヨウ君。君もユーミ神殿の名門御三家の1つであるモフィコ家の令嬢であり、僅か10歳で騎士の加護を受けた逸材だ。
君達2人を『Cランク冒険者』に任命する――――って、あらららら」
バタ――――ン……。
ヨウが泡を吹いて倒れてしまった。
慌ててオカメとオチヨさんが介抱する。
モスケは時が止まったかのようにガッチリ固まっていた。
息をしてるか?モスケ…。
「あかんわ、2人とも魂が抜けとるわww」
そりゃそうだ。新人FランクからいきなりCランクだもんな。
「それから、ハリー君。君はBランクに昇格だから☆」
バタ―――――ン……。
魂が抜けた気絶者、もう1人追加。
どうやら俺、飛び級でBランク冒険者になるようです―――