《31..救援に向けて》
「ハリー、こっちや!!」
俺とオカメは全力で駆け抜ける。
(やっぱりハリーはアタシの全力の走りに付いてきとる……やっぱりアンタは凄い人やったんやな……)
オカメは『ウロボロス』を倒したというハリーの力の可能性を見出だしていた。だからこそ今もこうしてハリーと行動を共にしている。
正直、ハリーを診療所に届け、ギルドに報告した後に、再びある目標の為に、一人旅に出るつもりだった。
あの討伐された『ウロボロス』を見るまでは。
あれをアタシはソロで倒せるのだろうか……。
もしかすると、ハリーはアタシよりも強くなるかもしれない……。
あれを目にし、ハリーに興味を抱いたアタシは不覚にも もっと彼と一緒にいてみたい……と思ってしまったのだ。
「オカメ、あそこだ!!」
俺は血を流して倒れている少女を見つける。
「あれは……ヨウ!!!??」
俺は駆け寄ると、怪我の状況を確認する。
「……よし、幸い深い傷は無さそうだ。ヨウ、喋れるか?いったい、何があった!?」
俺がヨウを抱き抱えて身体を起こすと、オカメが急いで回復魔法をかける。
ヨウに刻まれていた傷がじわじわと塞がっていく。
オカメの回復魔法、やっぱり凄いな……。
「………ハッ!!……あぁっ、オカメさん!!ハリーさん!!モスケが……モスケが……」
俺達を見るなりヨウの目に涙が浮かぶ。
「どうした、何があった!?……アイツは!?モスケは何処だ!!?」
「その……私たちは昨日と同じ様に薬草を採集していたのですが……事もあろうにあのバカ……ハリーさんに勝つ為だ……と、深い森に入って行ってしまって……私が急いで追いかけた時には……もぅ魔獣の群れに囲まれてしまっていたんです……」
あのバカ野郎…。
「私達も必死に抵抗しましたが……私達の実力では抗う事さえ出来ずに……モスケは……自分を囮にして私を…私だけを死に物狂いで逃がしてくれたんです……。
私は助けを呼ぶ為に逃げてきたのですが……ここで力尽きていたようです……。
どうか、モスケを…モスケを助けてください……モスケがいなくなったら……私…私…うぅぅ……」
ヨウは大粒の涙を流す。
オカメと俺は同時に口を開く。
「「まかせ――――」」
《オイラ達に任せとけ!!!!》
――――俺達よりも先にお前が言うか!!??
▽
▽
▽ 視点 《モスケ》
▽
「――防御障壁――――かはっ!!」
強烈な衝撃が脇腹に走り、その衝撃を堪えきれずに吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた体は激しく地面を削り、木に激突して止まる。
痛みが全身を蝕み、口から血飛沫が吹き出す。
口の中に鉄の味が広がる。
魔獣は、ざっと見ても10体近くいる。
確かコイツらは……頭に大きな角を持つ狼型のCランク魔獣、『ガルファング』だ。
単体ではまだ対処のしようかあるが、コイツらは群れで連携を取りながら獲物を狩る習性を持つ。
魔獣とはいえ、とてもズル賢い。物凄く頭が良いのだ。
今もこうして、魔法詠唱を狙って攻撃をしかけてくる。
故に、魔法はおろか防御障壁を展開する時間さえ稼ぐ事が出来ない。
俺のジョブは『神官』なのだが、前衛を持たない後方支援冒険者など、魔獣にとってはとるに足らない的だろう。
倒れた俺に1体のガルファングが近づいてくる。
トドメを刺すつもりなのだろう。
俺はただ強くなりたかった。
家族や仲間、そしてヨウを護れるくらいに……。
何より、小さい頃からずっと俺を護ってくれた強い姉ちゃんに少しでも近づきたかった……。
置いていかれるのが怖かった… 悔しかった……。
ヨウはうまく逃げられたかな……。
怖い思いさせちゃったな……ゴメンな……ダメな幼馴染みで……。
ガルファングが大きく口を開けて迫る。
頬を涙が伝って落ちる。
俺は強く覚悟を決め目を閉じた――――――。
―――――ドカッ!!!!!
「キャイィィン―――!!!!」
寸前のところでガルファングが回転しながら吹っ飛んでいく。
俺に向かってスッと手が差し伸べられる。
「………お……お前は……」
その見覚えのある顔が、ニカッと笑って俺に声をかける。
「大丈夫か?モスケ!!」
いけすかないムカつく同期野郎、ハリーだった。