《30..人間と獣人》
翌朝。
今日はオカメも同行してくれるらしい。
Aランク冒険者なのに、何か物凄く申し訳ない……。
だって、最高ランクの冒険者がFランクの冒険者に同行て……フェラーリで焼き芋を売る様なもんじゃね??
自分のギルド依頼は大丈夫なのか聞いてみたが
「アタシはいいの、お金稼ぎたいわけちゃうし、やりたい時にやりたい事をやりたいねん。」
……だそうだ。
それってただの仕事したくないフリーターの言い訳ですやん……。
そして、ぼちぼちか?……と思った矢先、
「おぃ!!てめぇ!!昨日は俺に買ったからって調子のるなよ!?今日は何がなんでも負けねぇからな!!」
……出た。
今日もやっぱり出た……コイツ。
昨日は確かにアイツの倍の薬草納品しましたけど!!?
モスケは鼻息を荒げ、大量のギルド依頼受領書を握りながら俺を指差し俺を散々罵倒すると、怒りの手刀を構えたヨウから追われながら颯爽とギルドから飛び出していった。
朝から元気だなぁ、アイツ。
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俺とコアラ、そしてオカメは昨日と同じ採集エリアに到着する。
ギルド依頼内容は昨日とほぼ同じである。むしろ、当面このギルド依頼が続くのだろう。
早速、俺は採集袋をコアラに預けると、薬草集めに駆け回る。
「じ―――――――っ。」
オカメは丁度良い岩に腰掛け、俺を眺めている。
ダダダ……
ダダダダ…… ザッザッ……
ダダダッ……
俺はオカメの視線に気を取られながらも、黙々と駆け回り、薬草をむしりまくる。
「じ―――――――っ。」
まだ見てる。俺の働く勇姿に見染めたか!!?
……なんて、そんな訳ないわな!!
「あーっ、もぅ、オカメ!!どうしたのさ!!ずっと俺を見てるから、視線が気になって仕方ないんだけど!!?」
見られる恥ずかしさに耐え兼ねて、頬を紅くしながら、つい口にしてしまった。
「……なぁ、アンタ、その走り方て、いつもそんな感じなのん?」
「…………はぇ?」
俺は声を上擦らせながら、変な声を出してしまった。
「いやな、今、初めてアンタの動き見てたんやけど……なんかぎこちなく見えるんよな。そぅ、なんていうか…その身体の使い方に慣れていないというか……」
身体の使い方……確かに俺はこの身体の使い方に慣れていないというか……分かっていない。
そりゃ、だって少し前まで人間だったのだから。人間としての身体の使い方と、チンチラ獣人としての身体の使い方は、身体の構造がそもそも違うのだから。
運転免許を取得せずに車に乗るようなものだろう。
「アタシな、昨日寝てる間にふと思ったんよ。普通レベルの人が、もしあの『ウロボロス』に出合わせた時、逃げるどころか攻撃を避ける事なんて不可能なはずなんやねん。だって、討伐レベルがAランクの魔獣やねんで?普通なら殺された事さえ気付かずに瞬殺されてもおかしくないレベルやのん。
それをアンタは、あり得ん事に、倒してるんよな。
普通じゃないんよ、アンタの力は。」
そう言えば、いきなり出くわしたモグラっぽい魔獣や、あの『ウロボロス』との戦いの時、無我夢中に逃げ回る時には物凄い身体の軽さを感じた気がする。
そう、例えるなら、重力が半減したような感覚だ。
確か、人間が重力が1/6しかない月に行くと、身体能力が6倍になるとか。
「試しに……走るときにやな、前に倒れる感覚を保ちつつ、倒れる寸前に太股と膝の力を足首から爪先にかけて後ろに弾くように走ってみてくれへんか?走るときは尻尾は真っ直ぐ後ろに伸ばす感じにな!!」
「えっと……こうかな?」
ダダダ………
ダダ……シュン………
ピシュン!!!!
お?おぉ??……おぉぉおぉぉ!!!!??
速い!!!!オカメの言う通りに走ると、めちゃくちゃ速くなった!!!!
一蹴りで進む距離が圧倒的に変わった!!!!!
そぅ、あの時と同じ走りの感覚だ!!!!
って………しまった!!うっかり考えもなしに走ったせいで一瞬で目の前に大木が迫る……ぶつかる……ッッ!!!!
「今や!!そこで尻尾を思いっきり左に振りぃ!!」
「……ッッ!!!!」
俺はオカメの叫びに応え、思いっきり尻尾を左にブンッと振る。
すると、身体が綺麗に反転した。そして、その流れに乗り、大木を両足で弾くと、更に身体を加速させる凄まじいジャンプを生んだ。
高い……!!!! そして……速い……!!!!
「………アンタ……やっぱり普通じゃない……想像以上の潜在能力を持っとったんやな……」
オカメはそのハリーの想像を遥かに越える尋常ではない動きを目にした瞬間だった。
(―――――れか―――――けて――――――)
……ん?
俺はジャンプから着地すると、何かが聞こえた気がした。
「……ん?オカメ、何か言った?」
「……いんや?何も喋ってへんで?」
「……コアラ、お前か?」
《うるさい、仕分けの邪魔をするな》
……………コイツ……。
(―――――だれか――――たすけて―――――!!!!)
やっぱり人の声だ!!!チンチラは耳が凄く良いんだ、間違いない!!!!
「今のはアタシにも聞こえたで!!!」
「……行こう!!!!」
俺はコアラの首根っこを掴むと、オカメと声のした方へと走った。