《29..薬草採集》
「えーっと、依頼の薬草は…と。」
今、俺は薬草が群生する原生林の中にいる。
所々が岩場や湿地になっていて、大きなシダ植物が身を寄せる様に生えている。
見上げれば大きな大樹の枝や葉が上部の日の光を遮り、その隙間からは沢山の光の筋が射し込み、朝露を輝かせている。
ここは王都から南西に進んだ所に位置しており、その奥地にはまだ未開の地が広がるという。それ故に低ランクの冒険者は浅い位置までしか立ち入る事を許可されていない。
そんな依頼目的の薬草を採集するポイントへは、途中に何度もコアラに間違いを指摘されながらも何とか辿り着いた形だ。
今回依頼されている薬草の品目は3種類。
『ナオリ草』
傷薬の原料。水仙の様な見た目で、青い花を咲かせる。
『ドクキエ草』
毒消し薬「デスペルA錠」の調合材料の1つ。鈴蘭の様な見た目で、薄紫の玉状の花を並べた形に咲かせる。
『キガツイ茸』
気付け薬や、漢方の材料。舞茸の様なキノコの1種。
それぞれを採集袋に束ねて入れていくというものだ。
「さぁて、俺の冒険者としての初仕事だ。張り切っていくぞぉ!!」
《張り切るのはいいが、間違った草を集めるのはよしてくれよ?……あぁ、違う、それはただの草だ!!いや、それも違うって!!……マジかこれ……そうか、わざとだ!!わざとなんだろ!?……なぁ、ハリー!!??》
「わ、わかった、落ち着けって。むっ!?コレだ!!これだろ!?」
《……それもただの草だ……この先が心配だな》
むぅ……これがなかなか難しかった。
「ぎゃっはっはっは!!!ざまぁねぇな!!!」
――――うげっ!また出やがった……モスケ、コイツもこの採集エリアだったのかよ……!!
と言うか、何でコイツはいちいち俺に絡んでくるんだよ、鬱陶しい……!!
おっ?おっ!?何だ、あんにゃろう、既にパンパンに詰まった採集袋を見せびらかしながらニヤついてこっち見てやがる……!!!!
カチ――――――――ン………
あっったまきたぁぁぁぁ!!!!!
絶対にアイツにだけは負けねぇぇぇぇぇぇ!!!!!
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ――――!!!!!」
俺は草刈機の如く薬草と思われる植物を片っ端からむしっていく。こうなったら意地でもアイツよりたくさん納品してやる!!!!!
意外と俺は負けず嫌いな性格だった様だ。
「はぁ、はぁ、どう?コアラ、薬草であってる!?」
《………いや、半分以上はただの草だぞ……》
NOォォォォォォォォォ――――!!!!!
《わかったわかった、仕分けはオイラがやるから、あんたはひたすら集めてくれ。ここで負けたら後が五月蝿そうだ……》
コアラは溜め息をつくと、山盛りに積まれた草の塊の仕分けに取り掛かる。だが、コアラは口では文句を言ってはいたが、内心は違うものだった。
《……ふっ、こうして話し相手がいるってのは楽しいものだな…。オイラはずっとあそこで待つ事だけだったからな…ふふふ》
コアラは嬉しかった。
今こうして長い年月をかけて待ち続けた待ち人に出会い、まだ1日ではあるが、なかなかに楽しい時間を共にしている。願わくば、早くハリーの為にも無くした記憶を戻してあげたい。そう思えた程だ。
こうして俺とコアラは日が沈みかけるまで、ただひたすらに薬草集めに没頭した。
最終的にギルド受領依頼分を遥かに越える大量の採集袋を抱え、ギルドへ帰還した俺とコアラのコンビは、無事初任務を完遂するのであった。