《28..初任務》
「おはようございます、ハリーさん。今日からギルドの初仕事ですね。頑張ってくださいねっ♪」
ニッコリ笑顔で出迎えてくれる受付嬢オチヨさん。今朝も清々しい美しさだ。
俺は朝早くからセンターギルドに来ている。今日から早速、冒険者としてギルド任務を受けてみる事にしたからだ。
ちなみにオカメは『まつぼっくり』で寝ている。
「………ふみぃ……頭いたぁい……今日は寝るー。」
……だそうだ。いや、それ二日酔いだろ。
そんなわけで一人でギルド依頼書掲示板に来てみたが……バーゲンセールに群がるおばちゃんか!!……ってなぐらいに冒険者が群がっている。
ある程度のランクに上がると、直接受付で依頼を受けたり出来るみたいだが、中堅以下のランカーにとっての朝の依頼受注争奪戦はまさに戦争状態だ。
えぇー……毎回この争奪戦を勝ち抜かなきゃいけないの?
……と考えながら、ランク毎に分けられた依頼書掲示板の中で、一番端のFランク掲示板の前まで進むと、予想外の状況に驚いた。
「………人がいない……。」
そう、意外にも人がガラガラだった。
しかし掲示板に目をやると、しっかりと所狭しと依頼状が並べて掲示されていた。
そのどれもが、『薬草の納品』、『薬草の納品』、『薬草の納品』。
ほぼ全てが薬草の納品だった。たまに『店番代行』とか『家事手伝い』とかが混じっている程度。……アルバイトか!!
「ふんっ、早速弱音を吐いてやがるぜ、やっぱ大した事ねーな!!」
むむっ!?このクソガキ感満載の声は……確かモスケとかいう同期冒険者だな!?手には早々に依頼書を握っていた。
「バカいえ、俺はコレとコレとコレを簡単にクリアしてやるよ!!」
売り言葉に買い言葉だ。俺は適当に『薬草の納品』依頼書を数枚むしり、鼻息を荒くする。
「くっ、じゃあ俺はコレとコレと……ぐあっ!!!」
パカァン!!!
俺に対抗して更に複数の依頼書を無差別にむしりとろうとするモスケの頭にヨウの手刀が落とされた。
「何でモスケはすぐにそうやってムキになるの!!
依頼書の1つ1つにはそれぞれ依頼主が気持ちを込めてギルドに依頼してくれてるのだから、ちゃんと私達も誠意を持って受領しないとダメじゃない!!そんなんじゃいつまでたっても……」
ぐっ…最もな意見すぎて俺も心が痛い……。
俺はモスケがヨウの説教に捕まっている間に、そそくさと受付に向かい、依頼受領手続きを行う。
「薬草の納品依頼、5件の受領ありがとう♪宜しくお願いしますね。
Fランクの冒険者は実績を重ね易くて、すぐEランクに上がっちゃうからいつも人手不足で困っちゃうの。わざわざ下のランクの依頼なんて受けないでしょ?だから助かるわ、応援しちゃう♪頑張って薬草集めてきてね♪」
オチヨさんは笑顔で右手の親指を立てて俺に向かって突き出す。
「あ…ありがとうございます、頑張ってきます!」
俺は伏し目がちに応え、頬を染める。
薬草の品目とノルマ、群生エリアが記された依頼受領書を受け取ると、照れ隠しにギルドを後にして城門に向けて駆け出していた。
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「おっ、兄ちゃん、今日は一人かい?」
「あっ、はい。昨晩はありがとうございました。」
城門に着くと、つい数時間前まで一緒に呑んでいた憲兵が声をかけてくれた。
あれから呑むは、歌うはで大騒ぎだった。
このオッチャンも、あれだけ呑んでいたのに元気だなぁ。
「従者…じゃなくて冒険者だったんだな、頑張ってこいよ、えぇと……」
「ハリーです、行ってきます!!」
「おぅ、ハリー、気をつけてな!!」
思わず頬が緩む。
応援してくれる人がいる。
見送ってくれる人がいる。
待っててくれる人がいる。
人間だった頃には無かったものが、今はここにある。
何だか感慨深いなぁ……。
俺は1つ深呼吸すると、目標の薬草群生地を目指し大草原へと駆け出した。
《ハリー、そっちじゃない、こっち》
………そして早速つまづいたのだった。