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《25..洋服屋》

洋服屋に到着。


右にも左にもお洒落な服が並ぶ。

高級服から農作業服、寝間着から下着に至るまで店いっぱいに陳列されている。


「おぉ…なかなかの品揃えのお店だな。男性用のコーナーは……おっ、あっちか。」


ぐるりと店内もを見渡し、目的のコーナーを見つけると客を掻き分けながら進んでいく。


これもいいし、こっちもなかなかカッコいい。あっちのあの服もお洒落たな。

むむ、なかなか目移りしちゃうなコレ。




「なぁなぁハリー、これなんかどや?」


オカメが全身真っ赤っ赤なスーツ調の服を持ってきた。

なんか袖から肘にかけて紐みたいなのがいっぱいヒラヒラしている服だった。


「……おぉ、カッコいいな!!…でもちょっと派手過ぎじゃないかな?」




《ハリー、ハリー!!これ、これ着てみないか!?》


コアラが真っ黒な生地に髑髏が刺繍された全身タイツを持ってきた。


「正義の味方にやられるから止めとけ!!」



――――――20分経過。



「なかなかこう、しっくりくる服が見つからないなぁ…。」


もう何着も試着してみたが、納得出来る服に巡り会えない。


そんな俺達を見かねてなのか、お店の奥で静かに座っていた小さなお婆ちゃんが声をかけてきた。


「もし、若いお兄ちゃんや。なかなかしっくりくるものが見つからないみたいだねぇ。良かったら、このお婆ちゃんが見繕ったコーディネートを見てくださらんかのぅ?」


お?お婆ちゃんがコーディネートですと?甚平とかならご遠慮頂きたいところだが…まぁどのみち決めかねてるのは事実だし、一応見せて頂いてもいいだろう。お婆ちゃんに連れられ、別室のガラスケースの前に案内される。


「………これは……!?」


「うわぁ……いいやんか、コレ……!!」


《うむ、カッコいいじゃないか!!》


白いファーが施された黒いジャケットに、黒いパンツ。合わせたシャツは真っ赤なインナーで、これがまた良く映えて見える。足元には厚底の焦茶色のブーツが添えられている。その一式を纏ったマネキン人形が、大事そうにガラスケースに収められていた。


最高にカッコいいじゃんかコレ!!

しかし、なぜこれだけ別室に飾られているんだろう……?


「これは私の息子の忘れ形見なのですじゃ……。もう50年程前になりますかのぅ…冒険者になる夢を叶えて、旅に出たその日に運悪く強力な魔獣に出くわしてしもうたらしく……そのまま命を落としてしまいましたのじゃ。

見たところ、お兄ちゃんも新人冒険者様だとお見受け致しますが、どうかこの形見を貰って下さいませぬか。お兄ちゃんの旅に息子の夢も連れていってやって下さいませぬかのぅ。そうすれば、あの子の無念も浮かばれまする」


お婆ちゃん……。


「悲しい思いをさせてしまってごめんなさい。そういう事ならば、喜んでお譲り頂きましょう。ただ、1つ条件があります。」


「おぉ、ありがとうございますじゃ。して、条件とは何ですかのぅ?」


「俺がこの服と一緒に旅をした冒険話を、ぜひ聞いて下さいませんか?何度でも話に来ます、俺!!」


「…………ありがとうございますじゃ。確かに、約束致しましょうぞ」


オカメとコアラ、そして俺はお互いに目を合わせ、笑顔で頷く。


お婆ちゃんが丁寧にガラスケースから衣装を取り出し、暫く抱き締める。

そして、ゆっくりと、確かめるように俺に手渡してくれた。


「早速着てみても?」


「お願いしますじゃ。」



――――俺は衣装を大事に抱え、着替えルームで着替えると皆の前に出た。


「ど…どうかな…?」


皆の前でクルリと回って見せる。


「ほっほっほ、私が見立てたとおり、サイズもぴったりでしたなぁ。」


「ふ…ふん!まぁまぁ男前になったんじゃないのん?」


《何で顔を赤くして口を尖らせてんだ?あれか?ツンデレか?》


「うるさいわ!」


コアラがオカメに殴られてるけど……なかなか皆の反応は良かったみたいだ。


しかもオカメの手には、ちゃっかりと紙袋が2つ握られていた。



因みに着てみてわかったが、この服、しっかりと裏生地に軽量鎖を編み込んであって、防御力も高めてある高価な一品だったようだ。軽量鎖だから重くもないし動きに差し支えが全く無い優れものだ。本当にありがたい。


「じゃ、そろそろ時間になるし、行こうか。」


俺は装備屋に戻る為、店頭へ向かおうと歩き出す。


「行ってらっしゃい、旅に出る時は充分気をつけてなぁ。

そうだ、お兄ちゃん、名前を聞いてもいいかい?」


「お婆ちゃん、ありがとうね。

俺の名前はハリー!!また絶対に来るから待っててね!

じゃ、行ってくるよ!!」


振り返り、手を降る。



「………っっ!!??」



お婆ちゃんは俺の姿に息子さんの姿を重ね、両手で口元を隠す。


その頬には一筋の涙が流れていた。



………行ってらっしゃい。お兄ちゃんを護ってあげて頂戴ね……



お婆ちゃんは俺達が見えなくなるまで見送ってくれていた。



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