《19..御機嫌オカメ》
表に出ると、人がやたらと集まり、ザワザワとざわついていた。
それもそのはず、そこにはロープでぐるぐる巻きにされた『ウロボロス』と呼ばれた大蛇の亡骸が小山の様に佇んでいたからだ。
「すっげぇな…何て大きさだ」
「あれを一人の女の子が引っ張ってきたらしいぜ」
「見てよあの牙…あれだけで私達の身長くらいあるわ…恐ろしい…」
「お母さ~ん、怖いよぉぉうぇぇぇん」
泣き出す小さな子供達までいる。
早く何とかしなければ…
と考えているうちに、オカメはロープの端を掴むと何事も無かったかのように簡単に『ウロボロス』を引き摺りながら引いていく。
おぉぉ…。すご…。
……いやいや、いかん、いかん、女の子一人に引かせるわけにはいかない。
慌てて俺もロープを掴み一緒に引いていく。
「なぁなぁハリー、提案があるんやけど」
「は…はひ?…何かな…ハァハァ」
想像以上に重たいなこの蛇…これをオカメは一人でここまで引いてきたのか。
「ハリー、アンタまだ冒険者になってへんから、この素材を持ち込んでも換金出来ひんねん。せやからな、これ、アタシが獲ってきた事にしてくれへんかな?
勿論、換金した素材代は全部アンタのもんや。
まぁ素材売らずに保管してもええんやけど…どないする?」
こんなデカイもん、保管方法無いし、そもそもの保管場所さえないしな。
むしろ、その方がありがたい。
「ぜひ頼む。ただ、素材代?は折半にしないか?コレを取りに行って持ってきてくれたのは君なんだから。」
「えぇねん、アタシは別にお金には困ってへんし。ただ、コイツを倒したっていう名声がアタシになってまうから、そこだけ許したって欲しいかなぁ」
そうだった、確か貴族の令嬢って言ってたしな。
それに確か、あの洞窟に緊急依頼で調査に行ってたって言ってたっけ。
それで手柄とりたいとか何とか。
まぁそういう事なら、お金と名声で報酬は吊り合う…のかも。
「わかった、じゃあ言葉に甘えさせてもらうよ。」
「ありがとー♪これで一応、ギルドに洞窟調査の報告出来るわー。」
「にひっ♪ふんふんふ~ん♪」
オカメは上機嫌に鼻唄を歌いながら進む。気持ちさっきまでより足取りが軽いようだ。
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更に進むと、正面に茶色い大きな3階建ての建物が見えてきた。王城とまではいかないが、城を彷彿とさせる素晴らしいお洒落なデザインだ。
その中央の屋根の頂点には、盾に2本の剣を交差させて重ねたデザインの旗が風に靡いている。
そして建物右側の塔屋の頂点には歯車とハンマーを重ねたデザインの旗が、そして建物左側の塔屋の頂点には天秤のデザインが標された旗がそれぞれ靡いている。
「ほら、あれがセンターギルドや。あの建物の右側が生産ギルド、左側が商業ギルド、ほんで真ん中のデカイやつが冒険者ギルドやねん」
センターギルドとは、このモフチラータ王国領にある街や村に点在する全ギルドを統括する総本山らしい。
「ギルド換金所もここにあるねん。そやから、とりあえず『ウロボロスの亡骸』はここに置いといて、換金手続き行こー」
すでに周りにはこれだけ野次馬達の人だかりが出来ているわけだし、誰も堂々と盗む奴はいないだろうし、大丈夫だろう。
(コアラ、くれぐれも喋るんじゃないぞ?)
《勿論だとも。センターギルドか…ドキドキするな》
念の為、コアラに釘を刺しておく。これだけ人がいる中で、誰が何処で目撃されるかわからないからな。
――――――ギィィィィ……。
両開きの扉を開け、俺とオカメはセンターギルドへと入っていった。