《16..城下街にて》
大きな街道には石畳が綺麗に敷かれ、両側には街路樹が並ぶ。
その更に外側には所狭しと店が並び、大いに賑わっている。
「安いよ安いよ――、今朝採れたての果物だよ――!!」
「そこの奥さん、おいしい干し葡萄をおひとつ試食いかがっすか――!?」
「武器に防具何でもありますよ――今ならメンテナンス一年付きでお得だよ――!!」
「母ちゃん、あれ食べたい!!」
至る所から元気のいい活気のある声が響いてくる。
まるで祭りか、というくらい人が混みあっている。
さすがは王都といったところか。
街並みを歩く人々には、様々な人種が入り交じっている。
当たり前だが最も多いのは、俺達と同じ『チンチラ』系の『モフチラ族』。全体の7割くらいだろうか?
ふさふさな長い耳を持ち、2mはありそうな大きな体つきの獣人達や、逆に丸い耳でほっぺたがぷっくりした、まるで子供のように小さな獣人達。中には背中にトゲトゲを背負ったような獣人までいる。
なるほど、ウサギにハムスターにハリネズミ…か。
あれだな、エキゾチックアニマル系の獣人達の世界…といったところだなコレ。
そんな、人と人の肩が当たりそうなくらいの人波の中を歩く。
だけど、その人混みの中でも際立って目立つオカメ。
その艶かしい程に美しい姿に目を釘付けにしたまま自然と周りが避けていく。すれ違う男達の俺を見る嫉妬の目が…メチャクチャ痛い…。
気を紛らわす為、オカメに会話を切り出す。
「ところでオカメ、気になったんだけど…」
「…ん?なんやのん?」
振り向くオカメの長い黒髪がサラッと風に流れ、ほんのり赤みがかった瞳が俺を見る。
うん、やっぱりかなりの美人だわ。
「オカメって、実はどこかしらのご令嬢か何かなの?」
先程抱いた疑問を投げ掛けてみる。
「……まぁ、そんなとこやな。詳しくは言いたないけど、アタシは一応それなりの身分の家の娘…ではあるわね。勝手に家を飛び出して好き勝手しとるけどな。まぁ…ちょっとした貴族なんよね、アタシん家」
おぉ…やはりか!どおりで御転婆…もとい、育ちが良さそうな風体があるわけだ。
「そんな事より、診療所に着いたで。……おっちゃん!!おるかぁ――!?」
バァァァン!!
オカメは診療所の入口のドアを豪快に開けると同時に叫ぶ。
「おぅわ!!びっくりした!!何だ、オカメかよ、いつも言っとるだろ、ここは病人もいる診療所なのだから、静かに来んかい。」
中には白衣を着た40代くらい(獣人故に見た目では判断しづらいが)の男性医師と、若い二人の看護師がいた。
「それにしても、久しぶりだなぁ。いつぶりだ?で、そちらの兄ちゃんは誰だい?お前のコレか?ん?」
ニヤニヤとしながら親指を立ててオカメが弄られている。
「ちゃうわアホ!!変なこと言っとる口、どついたろか!!」
――――ドガッ!!!!
「おぅふ!!」
言った時にはすでにオカメの左フックが男性医師の顔面を捉え、膝から崩れ落ちた。……俺は真面目にドン引きした。コイツ、ヤバい…。
「あ、ゴメン…軽く小突いただけやってんけど…あははは」
笑いながら男性医師の手をとり、引き起こすオカメ。
「相変わらずだな―お前は。ムチュッ」
どさくさ紛れにオカメの頬にキスをする男性医師。
「「先生!!サイテーですっ!!!」」
「死ねぇぇジジイごるぁぁぁぁぁ!!!!」
二人の看護婦とブチ切れたオカメの鉄拳が男性医師を袋叩きにし始めた。
もぅ怖ぇぇよコイツら…全然話が進まねぇ……
―――助けてコアラさん。
《ぐー……もぅ食べれない…むにゃ》
うぉぉい………また寝てるわコイツ……まんまコアラじゃねぇかオイ!!!!
―――――30分後。
「……えーと、ゴホン。
挨拶が遅れてすまなかったね。
俺はこの診療所の院長のオジジという。そして、こちらの二人が看護師のプラムとケセランだ。宜しくな!!」
「こちらこそはじめまして。俺はハリーといいます、宜しくです。」
差し出された手を握り、挨拶を返す。
院長はグレーのラフカットヘアで、丸メガネを掛けており、その身はやや細身でスラッとしている。よく見たら、なかなかの美形ではあったが、その口元はニヘラッと笑って締まりがない。勿体ない。
二人の看護師は、プラムさんが褐色肌に艶やかな黒髪のサイドアップ、実にけしからんナイスバディなお姉さんタイプ。対するケセランさんは、おっとりしたマイペースな女性で、銀髪セミロングをサイドで三つ編みに結っている。こちらはどちらかというと控え目バディだが、そういうマニアには多分たまらないはずだ。
「こう見えても、このおっちゃんの腕は確かやで。王国御用達の肩書きを持つくらいやでな。ちゅーわけで、しっかり診察受けときや!!ホンマはそう簡単に診察してもらえる先生ちゃうねんから、アタシに感謝しとき。にしし」
オカメが悪戯っぽく笑いながら、胸を張る。
「おいおい、そりゃ持ち上げすぎだぜ?……ま、オカメがそう言うなら仕方ねぇ、ハリーと言ったか?ちと診せてみろ」
院長が真面目な顔で俺の診察を始めてくれた。
「おっちゃん、頼むな。ほならアタシはアンタが倒したっちゅー大蛇の素材回収行ってくるからな!!また来るでーーー」
バァァァン!!!
そう言うとオカメは再び入口の扉を蹴り飛ばすと、あっと言う間に走って行ってしまった。
―――え?ちょっと…診察のお支払い、どうしたら……?俺、無一文なんですけど。
1人残された俺は焦る気持ちを抑えながら、言われるままに素直に診察に応じるのであった――――。