《14..戦後処理》
「団長――――!!」
チコの元に、褐色肌にブラウンの長い髪を後ろに1つに括り、副団長チクワと同じ白色に金色の縁取りを施した全身鎧に身を包み、細身の騎士剣と片手盾を手にした美人騎士―――もう一人の副団長サクラが部下を引き連れ駆けてくる。
「これはいったい…どうなったのでしょうか!?」
あの戦闘でも息を全く乱していないあたり、かなりの手練れである事が伺える。女性でここまでの地位に登り詰めたのも、相当な鍛練と実績を積んできた事だろう――。
消えゆく空の裂け目を見上げ、大神官タイサが口を開く。
「あの『四色の閃光』はおそらく、原初の勇者の方々が残されたと伝えられる、『勇者武器』の復活による余波の一部かもしれん。」
「「『勇者武器』の復活…ですか!!?」」
チクワとサクラが同時に言葉を吐く。
チコは黙って話に耳を傾けている。
「そもそも、およそ数百年、『原初の勇者』達が『天燃ゆる厄災』を退けてより、1度も再び『天燃ゆる厄災』の脅威は訪れなかった。故に『原初の勇者』により受け継がれた『勇者武器』はその役目を終え、眠りについたと聞く。
その1つが我が『ユーミ神殿』の護り神としての御神体であるのだが……何故か今になって再び訪れた脅威に触れ、『勇者武器』がその使命を基に復活、覚醒しようと『四色の閃光』としてヤツを討ち、その意思を示されたのかもしれん。」
「……成る程。しかし、それが事実であれば、『勇者武器』が復活するというのであれば、もしやあの『侵略の悪魔』供が今後も現れる…という事かもしれませんな…。」
チクワは眉間の皺を深くし、真剣な面持ちで言葉にする。
「その通り。ともなれば、早急に手を打たねばならん。今回は君達が近くにいてくれたお陰で何とか持ち堪える事が出来たが…次も必ずしも凌げるかという保障等無いからな…。
まずは『勇者武器』あるいはその所有者たる『稀代の勇者』を探し、育てねばならん。」
―――かつて世界には『王国』という種族の括りは存在していなかった。
せいぜい小さな集落程度で、畑を作り作物を育て、山で野草や果物を採り、のんびりとスローライフを送っていた。
しかし突然起こった『天燃ゆる厄災』に対し、戦う術を知らない人々は抵抗する事も出来ずに蹂躙され、滅びへと向かうのみだった。
しかし、世界が滅びる事は無かった。
『原初の勇者』と呼ばれる四人の英雄の出現により、『天燃ゆる厄災』は退けられたからだ。
この出来事を機に、人々は戦う力の必要性を高め、彼らの手によって人々に戦う術を伝えていく事となる。
『覇王ウォレット』
後に王国初代国王となり、善き賢王として国を治め、人々のリーダーとして国民の結束力、団結力を磨き、発展に導く。
『神速の剣聖ペイデ』
後に王国の初代聖騎士団長となり、王国の剣として国を支える柱となる。隠居を機にセンターギルドを設立する。
『慈母大神官ヒカリ』
後に人々に癒しと安らぎを与え、戦いに傷付いた人々の身体と精神を浄化する力を護り伝えるユーミ神殿の創始者となる。
『時空賢者スマパス』
後に自らが操る幾千の魔術を後世に伝える為に魔導学園を設立。魔術の他にもあらゆる秘術にも精通していたとされる。
―――その四人の『原初の勇者』が残した最大の遺産、『勇者武器』。役目を終え、眠りにつく事でその存在が表に出ることが無く、風物化しつつあった。
それが今、再び同じ敵『天燃ゆる厄災』を前に目覚めようとしている。
我が身を振るう『主』はすでに亡く、新たなる『主』を探し求めて――――
『侵略の悪魔』を討ち破りし『勇者武器』の『四色の閃光』は、上空を舞い、四方へと再び散り飛び去った。
(緋と蒼の閃光は王都方面… 碧の閃光は南方… そして、白は王都よりやや北側…か。これは内密に調査せねばなるまいな…)
チコは顎を親指と人差し指で掻きながら先程閃光が飛び去って行った方向を目で辿る。
「んん……!!…さぁて、お前ら!!このまましばらく街に留まり、復興に助力するぞ!!……って、誰だ!?道のド真ん中にどでかい穴ボコ開けまくった奴は!!!!」
「「団長!!あんたや!!!!」」
チコの言葉に、チクワとサクラが同時にツッコむ。
「だーっはっはっは!!!面目無い!!!!」
チコは高々と笑いながら、壊れた瓦礫を運ぼうと悪戦苦闘する街の住民達の中にズカズカと歩みより、自らぶっ壊した石畳の道の瓦礫を担ぎ運び始めた。
「……全く、あんたって人は……」
チクワとサクラは目を合わせ笑顔で軽く息を吐くと、仕方ないなぁ…とチコの元へと加勢に向かうのだった。
『天燃ゆる厄災』の再来。
――――それは長きに渡る我々達、『エキゾチアニマ』の戦いの幕開けでもあった。