《09..天燃ゆる厄災》
時は遡り―――――
ハリーがこの世界に転生してくる1ヶ月程前に……突然それは起こった。
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▼視点《?????》
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―――――私は悪夢を見ているのだろうか…。
真っ黒な荒れ狂う炎の波が津波のように街を飲み込んでいく―――――
轟音と共に崩れ、塵と化していく建物の数々…
悲鳴と共に逃げ惑い
逃げ遅れうねりを上げる煙に飲み込まれていく人々…
大地が割れ… 天が裂け…
大気は熱気を帯び、息を吸うだけで肺を焼いていく…
巨大な黒の獄炎に染まりゆく街並み…
灰となり散って逝く人々…
まるで地獄絵図を見ているような景色が……私の視界を黒一色に染めていく―――――
その漆黒の地獄絵図の中を悠々と進む『真っ黒な巨人』
かつて数百年前にソレは初めてこの世界に降り立った。
―――――――天燃ゆる厄災。
突然、空に真っ黒な裂目が現れ、『ソレ』は降りて来たという。
漆黒の黒炎を纏い、無差別に焼き払う『真っ黒な巨人』
私達の先祖は、ソレを『侵略の悪魔』と呼んだ。
――――――それが今、数百年の年月を経て、ここ、王都よりはるか東の僻地『ユーミ神殿』に突然現れた。
「動ける者は負傷者を連れて大聖堂へ!!!
聖魔導隊は奴を迎え撃つ!!!複合極大神聖魔法を許可する!!!総員隊列を組み、詠唱に準備に入れ!!!
王都へ援軍の要請をしている!!!増援が来るまで持ちこたえろ!!!」
『ユーミ神殿』神職最高位である『大神官タイサ』……私の父が自らタクトを振る。
だが事態は深刻。
援軍を要請しているとはいえ、ここ『ユーミ神殿』より『王都』まで不眠不休で走っても早くて3日はかかる。
つまり、最低でも3日もあの『侵略の悪魔』を抑え続けなければならないという事。無慈悲に蹂躙・破壊していく、あの無敵の怪物を抑える……。
そんな事は限りなく不可能な事であり……それはつまり…事実上、不可能な事だと言えよう…。
仮に援軍が来たところで、勝てる算段が全く立たない。何しろ、こちらのあらゆる攻撃は全て全く通用せず、『侵略の悪魔』が歩くだけで熱風を起こし、漆黒の炎が吹き荒れるのだから……。
私達は……ただ、ただ、絶望の真っ只中に立たされていたのである……