《プロローグ》
私はいったい何をしてるんだろう…
今日で何日寝ていないのだろう…
そもそも、今日は何月何日なんだろう…
過ぎていく時間の感覚さえ、とっくに失っている。
パソコンに前のめりになりながらキーボードを弾く。
カタカタカタカタ……タンッ!
ピーーー
「あぁー、またエラーかよ…くそっ」
両拳を握り、自分の膝を叩く。 …痛い。
このままだとまたノルマを達成出来ずに更に追い込みをかけなきゃいけないな…考えるだけで頭痛い。
いつからこうなってしまったのか。
私は晴乃(女)。
立派なプログラマーになりたくて、両親の反対を押しきり東京に上京してきた。
仕事も決まり、期待に夢を膨らませた新生活が始まる。
…はずだった。
気付いた時には既に遅く、泥沼のブラック生活に転落していた。
「はぁ…」
深いため息を吐く。
カラカラカラカラカラ…
傍らにある大きめのゲージで、私の唯一の同居人、『チンチラ』のハリー(♂)が回し車を回している。
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『チンチラ』
まんまるふっくらボディ。
丸く大きな耳につぶらな瞳。
長くふわふわなしっぽ。
長い髭は長く、器用に動く。
俊敏な動き、高いジャンプ力を誇る後ろ足。
器用に物を掴める前足。
食べるご飯は牧草。
砂浴びによるお風呂が大好き。
但し、温度変化に弱く、年中エアコンをかけっぱなしで室温調整をしなければならない為、電気代がヤバい事になる。
また、部屋中の物を噛るし、細かい毛も大量に舞う。何より20年近く生きる動物なので、安易に飼えるペットではない事も重々気にとめて頂きたい。
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「ハリーの為にも頑張って稼がなきゃ…だな」
私はパソコンに向き直る。
ノルマ達成させなきゃ…。
だが頭が酷く痛み、眩暈がする。
食事もろくに摂らなくなってお腹も減る感覚さえ失っている。
あ、これちょっとヤバいかも…。
水を飲もうと立ち上がろとした瞬間、事件がおきた。
ガタ―――――――――――ン!!!!!
ハリーが突然倒れた!
横に倒れ、そのまま動かない。
呼吸が浅い。
おかしい…ついさっきまで元気に回し車を回していたはず…
「ヤバい!病院連れてかなきゃ…!!
…って…うわ!?そうだった、今日は休診日で診察受付されてない!!」
行き付けのエキゾチックアニマルを診てくれる動物病院は、運悪く今日は休診日で開いていない。
エキゾチックアニマルとは『犬猫以外の小動物』又は『海外産の、特に珍しく、飼育例が少ないマイナーな動物達』を総称して呼ぶ…らしい。近しいところでは、ウサギやモルモット、ハムスターや爬虫類、鳥などが上げられる。
急いで急診してくれる病院を、探さなきゃいけない。
だが、エキゾチックアニマルを診てくれる動物病院は、まだまだ少ない。
「そうだ、インターネットで調べてみよう!!」
急いでパソコンに向かい、検索ワードを入力する。
早くしなきゃハリーがヤバい…早くしなきゃ…早く…早く…!!
カタカタカタカタ…
《エ・キ・ゾ・チ……》
「う…………っ…………!!」
突然、私の身にも異変が訪れる。
積もり積もった寝不足と栄養不足、過度のストレスに過剰労働。
それがこのタイミングで私を襲ったのか……。
視界がグニャリと歪んだ。
顔から血の気が引いていくのがわかる。
あ…これ…
ヤバいやつだ……
意識が遠くなっていく。
カタ……カタ…カタ……
《ア……ニ……マ……》
………タンッ
《エンターキー(実行)》
私の意識は暗闇の中に失われていく。
あぁ……私……死ぬんだ……
ハリー……大切なハリー……ごめんね…助けてあげられなくて…
ごめん…ね……………
そして……私の意識は暗闇の中に沈み、消えていった。
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《キーワード『エキゾチアニマ』確認…。
精神体、ベース媒体、共に確保…。ベース媒体に精神体を接続。
……アップデート開始します。
………………アップデート完了。生命体タイプCi構築を開始します。》
《実行しますか? →YES/NO》