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厩のなかから馬のいななきがして、お兄さんがお辞儀してから引っ込んだ。
「ラシェジルだな」ダストくんはトゥアフェーノをぺたぺた撫でる。「お前、ラシェジルがこわかったんだろう。あのにーちゃんは優しそうだったもんな」
「前はトゥアフェーノ以外は別の厩へいれてくれてたんだけどね。そうかあ、裾野でももうトゥアフェーノは古いんだねえ」
ハーバラムさんが残念げに云い、ダストくんが頷いた。
文房具を売るのは、大通りを南下したところにある、本屋さんへだった。
本屋さんと聴いてうきうきする。よかった、普通に本屋さんあるんだ。手掛かりになりそうな本がないかなあ?
「マオもおいでよ。ついでにまちの案内もしたげる」
お言葉に甘えた。ハーバラムさん好いひと。
ダストくんがトゥアフェーノをなだめつつ歩かせる。大通りにはひとけが増え、ラシェジルやトゥレトゥススもちらほら見える。トゥアフェーノは馬も熊も苦手らしく、傍を通らざるを得ない時はあからさまにびくついていた。
飾り立てたラシェジルも見かけた。テレビで見たらくだレースを思い出した。
トゥレトゥススは、この前のまちでは、口枷だけで裸だったのだが、レントでは防具を付けたものばかりだ。あれはシアイルのキゾクってやつだろうね、とハーバラムさんが、豪華な鎧を付けたトゥレトゥススの引く、これまた豪華な馬車を示して耳打ちしてきた。
貴族、かな。シアイルとディファーズにはそういう身分があるらしいから。ロアは所謂民主主義で、身分制度は撤廃されているし、職業選択の自由もある。ただし連邦国家なので、もともとの国の身分が残っているところはある。
それにしても、道行くひとの服装も様々だ。ただ、男性は髪が長いか、ピアスや髪飾りでごてごて飾り立てているのは変わらない。
髪色は、何色でもあるみたい。真っ白のひとも見たし、頭が虹色のひとも居た。比喩じゃなくリアルに虹色に煌いていたのだ。あと、竹みたいな緑とか、紫芋みたいな色とか。
肌の色は、ダストくんみたいなカフェオレ色、ハーバラムさんみたいなそれよりちょっと明るい色、ダークチョコの色、はちみつ色、桃の果肉色、人参そぼろ色、ロイヤルミルクティー色、黍団子色きび砂糖のはいったむしパン色……やばいお腹空いた。
お昼まであとどれくらいだろう。腹具合からするともう一時間ないぞ。




