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レントはこの世で一番御山に近い、というか、御山の中腹まで侵食しているまちだ。御山の西・南・北側には隣接するまちはなく、樹海や川で他国と遮られている。
だから、レントには各国から、入山志望者が多く集まる。当然、それを狙った犯罪も多い。重大なものはそう起こらないが、盗み、すり、置き引きなどはままある。
ちなみに、「入山」とは、御山へ学生もしくは研究者・学者としてはいる場合を指す。下働きとして雇われた場合は、「奉公」。入山と奉公では格が違う。でも、下働きから学者になりあがったひとも居るので、奉公を足掛かりにしようと考えるのが大勢。入山よりはるかに難度が低いから。
学者や研究者としての入山は、すでに入山している先生達の推薦をもらった上で、なにかしら難しい試験を突破する必要がある。
翻って、下働きは簡単な試験に通ればいい。その都度内容は違うが、指定の本を読むだけなんて云う試験の時もあった。それは有名な話らしい。
下働きの募集は不定期。多いと年に五・六回もある。その度に募集の十倍はひとが集まる。倍率は高い。
御山へ這入る為の門をくぐった向こうで試験が行われるのだが、毎回試験を受けられないひとが出て、ちょっとした騒ぎになるそうだ。
けれど、御山で働くのは厳しいことらしく、下働きはほとんどが一年保たずに辞める。
うーん、それは困った。基本がぐうたらのんびりだから、激務はいやだ。
ハーバラムさんの話を聴いて唸ってしまった。「マオは学者になりたくって、下働きを目指してるの?」
「いえ。下働きになったら、本を読めるかなって」
笑われた。
宿に着き、馬車を厩からひっぱり出す。
トゥアフェーノはダストくんにすっかりなついていて、ドライフルーツをもらうと嬉しそうに鼻をふんふんいわせた。ダストくんはその鼻面を撫でてやっている。厩番のお兄さんがそれを羨ましそうに見ていた。
「よく慣れてますね。駆使魔法ですか?」
ダストくんは苦笑する。
「俺の父親は荒れ地でトゥアフェーノを捕まえてるんですよ。ひとに慣らすためにずーっと世話をしてきたんで、匂いが移っちまったんでしょうね。お仲間だと思われてるみたいです」
「はあ、なるほど……それにしても、怯えさせないのがお上手で」
トゥアフェーノがぴぴぴと鳴いて、ダストくんにドライフルーツを催促した。




