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「どうしてですか」
「時間停滞の収納空間持ちは、錬金術士や調剤士のお抱え採取係になったりするからね。ほかの錬金術士にとられちゃかなわないもの、メーデ達は吹聴しないよ」
成程、ほかの薬工房からもっと高額で薬材を引き取ると、ヘッドハンティング的なのがあるかもしれないのか。それを防ぐために、いい材料を持ってくるひとはなるたけ優遇して引き留めるのだな。
「職業が薬材採取士だったら大騒ぎだよ。ま、そこまで特殊能力と職業が噛み合ってるひとはなかなかいないけど」
門をくぐった。門柱に寄りかかっていたダストくんが、ぱっと姿勢を正した。
「長かったけど、売れたの? ハーおじさん」
「売れたよ。取り分あげるから、ダスト坊、財布出しな」
ダストくんが素直に財布を取り出し、ハーバラムさんが銀貨を渡す。ダストくんは大量の銀貨にも表情を変えない。
「ダストくん、驚かないんだね」
「ん? ああ、母さんが薬の材料買うの、何度も見てるから。原価はこんなもんなのか。運搬料って大きいんだな」
「荒れ地近くでは取れないらしいからねえ」
ハーバラムさんが爪先立って、ダストくんをよしよしした。「ダスト坊、運搬料まで考えてて偉いよ」
「ハーおじさんやめてよ……ほら、文房具売りに行くんだろ」
ダストくんがハーバラムさんを押しのける。ハーバラムさんはくすくす笑って、じゃあ馬車をとりに戻ろうか、と云った。
一旦宿まで戻る。
レントは、南北にひろいまちだ。御山に抱きつくみたいな恰好をしているとハーバラムさんは表現した。形的には、聴く限り、ふとった弓みたいな感じ。西側が弦。クロワッサンでもいいかな。
西にある御山に近い程、お金持ちが住んでいる。もしくは、お金持ちの行くお店がある。
さっきの薬工房は、レントの中心から少し北東へ行ったところにあって、宿はその反対。レントの中心から南南西。と云っても、工房はほぼ中心に位置しているので、距離はさほどない。
大通りは南北に通っていて、端へ行くほどお店のランクは落ちる。だから、町の中心近くに居るのが安全とのこと。宿なんかは特に。
「あの、今泊まってる宿って、宿賃は……?」
「一泊夕食付きで、ひとり銀貨34枚。ああ、馬車の預かり賃を抜いたら銀貨29枚だね」
ひええ。
「半分くらいは土地代だろうけど、安全にはかえられないよ。レントで宿をさがすなら、中心に近くて西側ってのが鉄則」




