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「へ?」
「いいから戻せ!」
怒鳴りつけられた。
吃驚して、収納空間の口を閉じる。それから今度はカウンタの下あたりに大きく口を開き、チダメグサをかきあつめて突っ込んだ。
なに? なんか悪いことした?
びくびくして、誰かがなにか云うのを待っている。と、ハーバラムさんが手を鳴らした。「まーあ、驚いた。時間停滞の収納空間だね」
時間停滞。
メーデさんが目をまんまるにしている。サローちゃんは唖然。
「なんだあハーバラム、お前さん知らなかったのか?」
「知ってたら云うよ。マオ、……ああいや、うん。メーデ?」
ハーバラムさんがにっこり、メーデさんへ笑みかけた。
メーデさんは暫くぽかんとしていたが、はっと息をのんでこちらを向く。「すまん! 大きい声出して、驚かしたな。この通りだ」
頭を下げられた。はあ、と返す。なんだろう?
怒鳴られた理由もよく解らなければ、謝られたのが何故かも解らない。
サローちゃんが奥へと駈け込んでいった。怒鳴り声が聴こえてくる。「壜全部出しなさい! あんたは搾り機用意!」
どうやら、蒸籠むしはとりやめたようだ。
メーデさんが胸をなでおろした。
「いやあ、心臓に悪い。ぼっちゃん、時間停滞ならそう云ってくれなきゃな」
「はあ、すみません」
「ああ、いや、いい、怒鳴ったこっちが悪い。それにいい薬材を持って来てくれたんだ、ありがたいよ」
はあ。
ハーバラムさんが云った。
「マオ、あの草は摘みたてほどいいって云ったろ?」
「はい」
「摘んで三十分もすりゃ、しなっとして、色がもっと赤くなってくるんだ。そうなると、摘みたての半分くらいの効果……だよねメーデ?」
「ああ」メーデさんは頷く。「そのあとは半日くらいは変わらない。次は、黄色がかってくる。店に持ち込まれるのは大概この黄色がかったやつで、効果は摘みたての半分の半分ってとこだな」
徐々に徐々に効果がうすれるのじゃなく、段階的に下がっていく、のだな。
じゃあ、摘んですぐに収納空間へぽいしていたこのチダメグサは、摘みたてと同等の価値ってことか。
にしても、時間停滞の収納空間というものがあるらしくて助かった。
摘んですぐに劣化が始まるとは思っていなかったのだ。精々一日経ったらしなびてくるとかその程度だと考えていたから、ぱりっとしゃきっと元気な草を取り出してこんな騒ぎになるとは。
袖まくりしたサローちゃんが戻ってきた。「チダメグサ、寄越して」
口調がきつくないですかね? 怒ってる?




