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おじいさんがにこにこして頷いたのと同時に、ダストくんが泡をくって外へと逃げていった。
??
「ありゃ」ハーバラムさんがちらっとそれを見て、申し訳なげにおじいさんへ云う。「ごめんね」
「ははは、慣れておるよ。おじょうちゃ……ぼっちゃんは平気かね?」
首を傾げた。
「……あ」
おじいさん、睨みつけてくる女の子、と交互に見て、漸くと解った。ふたりは、髪の間から、毛のふさふさした猫耳が覗いている。ダストくんは猫をこわがるのだ。
おじいさん=メーデさんは、奥のアーチの向こうへなにやら声を掛けた。どうも、お弟子さんが作業中らしい。「蒸籠を用意しろ。チダメグサだ」
蒸籠? むすのかな。
きょとんとしていると、ハーバラムさんが教えてくれた。
「あの草は、むして乾かしとくと、生に近い効能が保てるんだって。わたしは技術がないからできないけどね」
「はー、なるほど。じゃあ生ではつかわないんですか?」
「つかう」
思わぬ方向から答えがきた。
女の子だ。ハーバラムさんがにっこりする。
「メーデのお孫さんだよ。シャルちゃんだっけ?」
「サロー。チダメグサは摘みたてしか生ではつかえない。だからわたし達は外で調剤するの」
「へえ。枝豆みたい」
エダマメ? とハーバラムさんが首を傾げた。枝豆はないのだろうか、この世界。
「お湯を沸かしといてから畑にとりに行って、とれたてをゆがいて食べるものです」
「おいしいの?」
「そりゃもう」
メーデさんがこちらを振り向いた。サローちゃんが無言ではかりを用意する。上皿天秤だった。
「幾ら綺麗どころが揃って持ってきたと云え、色はつけないぞ」
「メーデったら、いっつもこうなんだよ。マオ、無視していいからね」
ハーバラムさんがくすくすすると、メーデさんはいたずらが成功したみたいに嬉しそうに笑った。
サローちゃんが天秤をセットし終えた。「じいちゃん」
「おお。じゃ、品物を見せてもらおうか?」
「マオ、こっちへ出しておくれ」
カウンタへ近付く。カウンタの上にはメーデさんが油紙を敷いていた。ハーバラムさんがそこを示しているので、収納空間の口を油紙の上でさかしまに開く。
チダメグサを出そうと思ったら、ばさばさと落ちてきた。さかしまに口を開いても、勝手に中身がこぼれ出たりはしないらしい。便利。
チダメグサは結構な量で、カウンタへ積み重なった。これでいくらくらいなのかな?
銀貨何枚かになればいいなとのんきに考えていると、メーデさんが喚いた。
「こりゃいかん! もとに戻してくれ!」




