83
「ダストくん聴こえてなかったの」
「だから、なにが?」
「あの三人のかいわ。入山したひとくらいしか自慢がないなんにもない村、大金積まれてもまもりたくないって」
ダストくんは眉をひそめる。
ハーバラムさんがテーブルへ頬杖をついた。「ありゃまあ。あの子たちもばかだね。誰も居ないとこで云やいいのに」
「マオ、それほんとか」
「ダストくん、ほんとに聴こえなかった? はっきり云ってたよ」
ダストくんは頭を振る。
じゃあ……聴いてなかったから無反応だったってこと?
「マオは嘘吐く必要ないし。村の護衛で雇われたら暫くは安泰だから、一応やる気を見せとくってのも解る。にしてもやりくちが下手だけど。ダスト坊、ナジにはあの三人のこと伝えときな」
「ハーおじさん」ダストくんが気色ばんだ。「どうして、」
「こいつらだけは絶対雇うなって、さ。やる気のない傭兵は、辺境の村の護衛なんて、いざとなったら投げ出すからね。わたしの経験譚」
ハーバラムさんの口調は辛辣だった。「あいつらには、長老達にはきちんと伝えておくっていっとくんだね。しつこく売り込まれでもしたら気分が悪いったらありゃしない。それに嘘にはならないよ。要注意だってちゃ-んと伝えるんだから」
ちょっと目をぱちぱちさせてから、ダストくんはこっくり頷く。
「マオ、ありがとな、教えてくれて」
「え? いや、たまたま聴こえただけだから」
「俺、全然聴こえてなかったから、父さんにすすめるところだった」
ダストくんのことを悪く云ってたのも聴こえなかったのかな?
荷物で遮られてたから、俺に聴こえたのが偶然、とか。まあ、あるか。
ハーバラムさんはくさくさすると不機嫌だったが、食堂を出るとにっこりした。切り替えがはやい。
「ああ云う手合いはね、村が襲撃されたら尻尾巻いて逃げやがる。うちの村はたてなおすのに十年かかったんだ。やる気がないなら端から来なきゃいいのに、田舎で大きい顔できるのが楽しいんだろうねえあー腹が立つ」
全然切り替えられてなかった。
ダストくんがハーバラムさんのせなかをぺたぺたした。ハーバラムさんはこれさいわい、だすとぼうう、と甘えた声を出してダストくんへしなだれかかる。今日はおろしてところどころにリボンをくくりつけている長い髪が、わさあっと揺れた。
ダストくんの云っていた、家が潰されて以来魔物が苦手、というのは、傭兵がまともに戦わなかったせいなのか。村を悪く云っておいて昨日のあの態度だと知ったら、そりゃ不機嫌にもなる。




