82
レントで迎えた初めての朝。寝違えた。
ベッドのやわらかさが原因だな。首が痛い。
顔を洗うために上体を屈めると痛みが酷かった。ついてないなあ。
あ、井戸は中庭にあった。自由につかっていいらしいが、だーれも居ないなかで独り占めだった。滑車はないが、上に棒を一本渡してあって、そこにひっかけた紐に桶を括りつけている。断然楽だ。
レントは下水もかなり整備されているそうで、庭の隅に溝が通っている。井戸の位置を訊ねたら、お仕着せのお兄さんが誇らしそうに説明してくれたのだ。まあ、客室で顔を洗ったりしたら、窓から投げ捨てるのは変わらないみたいだけど。
ちなみに窓が向いているのは前庭なので、お兄さん達はひやひやしながら朝の掃除をこなしているらしい。お疲れさまです。
朝・昼のご飯はついていないそうで、外で食べることになった。
傭兵達は行きつけのお店があるとかで別れ、ハーバラムさんに連れられて、小さな食堂へ這入る。頼めるものはひとつで、量は加減できるらしいから大盛りにしてもらった。
ひらぺったい、硬いクレープみたいなパンと、葉もののサラダ、採れたてのフルーツの盛り合わせ、タンドリーチキンっぽいの。タンドリーチキンっぽいやつは、おいしいのだが、スパイスがあんまり効いていなかった。値段との兼ね合いを考えたら充分かなという感じ。
ハーバラムさんもダストくんも、傭兵達が居ないからか、村にいるみたいにぺらぺら喋る。速度が速すぎて口をはさめない。ふたりともいつ食べているのか、食料は着実に減っていった。
食後のお茶を飲む段になって、昨日の夕食でのことが話題になった。
「イルクたち、ほんとに辺境の村の警護なんてやる気なのかね?」
ハーバラムさんが首を傾げる。ないない、ないですよ彼らにやる気なんて。凄く効く怪我のお薬が欲しいだけ。
ダストくんはお茶を呷って、うーん、と唸った。
「解らねえけど、まあ父さんに話すくらいはしとくよ。傭兵の雇い賃が上がって大変らしいし」
え? どうして? 悪口云ってたじゃん?
混乱した。あれを聴いても雇うかどうか迷うの?
ふたりがこちらを見て、きょとんとした。
「どうしたんだいマオ、そんなに大口開けて」
「え。……だって、ダストくん、あのひと達いやじゃないの?」
「ん? なにが?」
「ダストくんの村の悪口いってたでしょあの三人」
ダストくんは、え? と首を傾げた。
え?
もしかして聴こえてなかった?




