796
ステューフさんとエイマベルさんが、イルクさんを追ってやってきた。「イルク」
「その子が弟さん?」
「……ああ」
シュナースヴェン兄弟はぱっと離れる。「弟のグエンだよ。娼妓をやってる」
グエンくんがふたりへ軽く頭を下げた。ふたりも会釈する。それから、俺、ミューくん、リーニくんを見て、小首を傾げる。「マオ……」
「どうも」
「君も娼妓を?」
「マオは違うよ」兄の言葉を、グエンくんが即座に否定した。「騙されそうになったんだ。もうちょっとで……」
「……そうか」
「マオのおかげで、クラルの病が治るかもしれないんだ」
イルクさんが吃驚した顔をこちらへ向けた。俺はへらへら笑っている。グエンくんは、ミューくんを示した。「マオの友達の、こちらの癒し手さまが、クラルを診てくれるって」
「でも……」イルクさんは戸惑って、俺やミューくん、グエンくんを見る。「今だって、癒し手に恢復魔法をかけてもらってるだろう」
「その辺の癒し手とは違うんだよ。気絶したひとをすぐに起こしたり、凄いんだ」
「そうか……イルク・シュナースヴェンです。癒し手さま」
「あの、まだみならいなんです。治せるかどうかは解りませんし」
ミューくんはちょっと困った顔だったが、微笑みをつくる。「でも、俺がだめだったら、ほかの癒し手に協力を頼んでみます。癒し手の知り合いは多いですから、誰かはなんとかできると思いますよ」
イルクさんはそれを聴いて、目に涙を浮かべた。「ありがとうございます……」
六人は出て行く。リーニくんも、グエンくんについて行くそうだ。荷物持ちだよ、とにこにこしていた。
テーブルの上に残った食糧を傭兵達に配る(感謝された)。沽券などの書類は、持って帰っていいとのことなので、収納空間へ放り込んだ。ふん縛る前にロントにきいたが、ウロアの私邸と、ラッツァク商会にも、書類は山程あるらしい。それらも全部調べないといけないのか。うんざりする。
計算能力の高いひとって、ミューくん以外に居たかな。そういうひとを傭兵協会から貸してもらえたりしないのだろうか。
伸びをした。「マオさんってほんとに、暢気ですね」
「……ツィークくん」
ツィークくんは新しい剣を佩いていた。前髪が乱れているのを、神経質に手で直している。
「ここは協会でくわしく調べます。さらわれたひとがまだどこかに閉じ込められているかもしれない」
「ああ、そうだね。お願いします。そのひと達にも、賠償はしますから」
「ラッツァクと、ウロア個人の所有不動産も、調べますよ」
「うん。助かります」
ツィークくんは、溜め息を吐く。「あなたはおかしい。……罵ってる訳じゃありませんからね」
おかしい、も、いい意味になるものなのかな。ま、自分でもおかしいとは思うから、腹は立たないけど。




