793
ジーナちゃんはサキくんが好きだよ、とは、口が裂けても云えない。そこは、当人達のタイミングでやってもらわないといけないことだ。
なのだけれど、もどかしい。ミューくんは慥かに凄くいい子だ。そして、外見もかっこいい。でも、ジーナちゃんがさっきからずっと気にしてるのはサキくんで、それは多分、サキくんとリオちゃんが仲睦まじくしていることに対する……焦りというか、嫉妬というか、なのでは。
ジーナちゃんがミューくんにパンを食べさせてたのも、その裏返しな気がするんだよな。みせつけるというか。
その辺のことを云いたくても云えはしないので、俺は微笑もうとした。引き攣ったけど。「ミューくんはいい子だけど、サキくんだってまけてないよ。かっこいいし」
「マオさんは優しいな」
サキくんはくすっとした。
「マオ」
びくつく。真横にジーナちゃんが立っていた。「ジーナ」
サキくんがにこっとした。ジーナちゃんはちらっとサキくんを見て、目を逸らす。
「今日は、家族の許へ帰らされそうだわ」
「ああ、うん。仕方ないよ。お母さん達心配してるだろうし」
「……そうね。ミューとの縁が切れてしまったらことだもの。がらすの食器みたいに護送されても当然ね」
ちょっと棘のある言葉に俺が反応するよりはやく、サキくんが半畳をいれる。
「僕がお宅まで送ろうか?君が割れないように気を付けるよ」
サキくんもこんな軽口を叩くんだ。吃驚した。
ジーナちゃんは一瞬目を瞠ってサキくんを見、顔をしかめた後背を向けて居なくなってしまった。
サキくんは頭を掻く。「……失敗しちゃったなあ。僕、いつもこれなんです。距離感を掴むのが苦手で」
「ジーナちゃん、凄く怒ってるってわけじゃないと思うよ」
戸惑いが強いと思う。サキくんに話しかけられて動揺したのと、内容に吃驚したんじゃなかろうか。
サキくんは、ジーナちゃんの侍女達を見遣った。ジーナちゃんがそちらにあらわれ、侍女達となにやら言葉を交わす。侍女達はジーナちゃんが突然あらわれることに慣れているのか、驚いた様子はない。
サキくんがひとりごとみたいに云った。
「いろんなものでがんじがらめなのは、みんな一緒なんですね」
サキくんが傭兵に呼ばれ、俺に一礼して去って行った。いれかわりみたいにリッターくんがやってきた。精々中学生にしか見えないお父さんは、ユラちゃんと話し込んでいる。「マオ、俺達は裾野邸へ戻る」
「うん。ありがとうね」
「いや。お前のおかげで、無駄に戦わずに済んだ」
リッターくんは目を伏せる。「俺は戦いは苦手だ」
そうなの?……やっぱりこの子心配だ。率先して戦うんだもん。誤解されちゃうよ。




