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廊下から複数人がのりこんでくる。ユラちゃんがそちらへ両手を向けた。サキくんが叫ぶ。「ジーナには牆壁が効いていない、急いで!」
「解ってるわよおっ、ひゃくら」
「待って」
ジーナちゃんがユラちゃんの真後ろにあらわれて、ユラちゃんの口を塞いだ。
ユラちゃんがじたばたする。「敵ではないわ」
リオちゃんが、わあ、と嬉しそうな声をあげて、剣を仕舞った。リッターくんも動きを停め、ゆっくり剣を仕舞う。
ユラちゃんがじたばたをやめ、ジーナちゃんが手を離した。
俺は声を裏返らせる。
「つぃーくくん?」
リオちゃんの一撃をまともに剣でうけてしまっていたツィークくんは、痛そうに右手をひらひらさせた。「まったくもう、なんなんですかあ」
突入してきたのは、警邏隊と傭兵、それに、レフオーブル家やエンバーダート家の私兵、みたいだ。侍女軍団がユラちゃんに群がって、ユラさまご無事でしたか、とやっている。ジーナちゃんのほうにも、武装した侍女数人が集まっている。
「大丈夫よ」ユラちゃんはくいと顎をあげる。「わたしは掠り傷ひとつ負っていないわ。魔術者ですもの」
「あら、ミューに怪我を治してもらったでしょ」
ジーナちゃんが低くつっこむ。ユラちゃんはそれを睨みつけた。
忙しいのはミューくんだ。リッターくんとリオちゃんにノックアウトされた数人を、丁寧に治療している。ツィークくんは手首を捻挫したらしい。でも、ミューくんのおかげですぐに治っていた。
「リッター!」
165cmくらいの男性が、警邏隊を掻き分けて走り込んできて、ぴょいとリッターくんに飛びつく。リッターくんはそれをうけとめて、ぎゅっとした。「さがしたぞ」
男性は、黒白斑の髪を膝くらいまで伸ばし、あみこんでハーフアップにしている。黒い手袋をしていて、短めの杖を握りしめていた。どろっとした絹のローブに埋もれるみたいな華奢な体で、リッターくんは軽々横抱きにする。
男性はリッターくんに頬摺りしていた。眉毛の感じとか、なんとなく似ている。リッターくんより歳下っぽいから、弟かなあ?
「お前とユラさまが居なくなったから、大騒ぎだったのだぞ。裾野に来たばかりだというのに、駈けずりまわらされて」
「すみません父上」
あん?
父上つった?いやいや嘘やろ。あんな小学生みたいな親父が居てたまるか、て、いうか、親父をお姫さま抱っこするやつがおるか?
「あらロヴィオダーリ卿じゃないの。もう到着してたのね」
しかし、ユラちゃんが平然とそう云ったので、どうやら本当に親子らしい。ロヴィオダーリ卿はリッターくんのほっぺたにちゅっちゅっとキスして、ご満悦だった。




