786
けもみみさん達は、戸惑い顔でマグを持っている。俺はちょっと考えてから訊いた。「あの、おなかすいてなかったですか?」
「え……」
「それなら、残してもらって結構です。ひきとりますんで」
「いえ」狼っぽい耳の青年が頭を振る。「おなかは、減ってます」
「じゃ、遠慮せずにどうぞどうぞ、……もしかして、苦手ですか?人参」
「いいえ……」
しかし、けもみみさん達はなかなか食べようとしない。俺のお料理、まずそうに見えてるのかな。これは、もっと精進が必要なようだ。おなかに収まったら一緒じゃん、という雑なところがつい出てしまうんだよな。煮物の色味も気にしないし、食卓が茶色っぽくなっちゃうことも多々あるし、破れ茶碗でもつかえるなら(ほんとはつかいたくないけど勿体なくて)つかっちゃうし。
とりあえず、あんまりしつこく食べろ食べろとすすめるのはよくないな。自分の食事に集中しよう。
ベシャメルソースのパンをばくばく食べていると(意地汚い自覚はある)、狼耳の青年がおずおずと話しかけてきた。「……マオさん?」
「はあい」口のなかのものをのみこむ。「なんでしょう」
「これ、おいしいです」
狼耳さんは、腸詰めのパンを示してそういった。八重歯、というか、牙がきらっと光る。やっぱりお肉好きなのかなあ、とどうでもいいことを考えた。
狼耳さんが食べると、ほかのひと達もパンをとりはじめる。まずそうなんじゃなくて、警戒していたのかもしれない。
「サキちゃん」
「うん……」
リオちゃんはサキくんにあーんしてご満悦だ。サキくんは困った顔でパンを食べている。ふたりは立ったままお食事。
ジーナちゃんはミューくんと並んで座って、低声で喋りながらお食事中。しかし、目はちらちらとサキくんを見ていた。
ちなみにミューくんの隣にはリッターくんが陣取っていて、黙々と食糧を口に詰め込んでいる。ミューくんと仲好くなりたいのか、凄く距離が近いのだが、リッターくん、ミューくんのそれなりに怯えた表情を見て気付いてくれ。リッターくんいい子なんだから、勘違いされないようにならないかなあ。
ユラちゃんはろくに嚙みもせずにどんどんのみこんで、ひょいと椅子を降りた。「ほら、席が空いたわよ。あんたここに座りなさい」
グエンくんを引っ張って、椅子に座らせている。グエンくんは瞬いて、低声でお礼を云った。「ありがとう……」
「当然のことよ!わたしはレフオーブル家の者、弱者には情けをかけるわ」
ユラちゃんは胸を張る。グエンくんは苦笑した。でも、親切にしないよりはするほうがいいよね。だからユラちゃんはいい子。
満足するまで食べたので俺も席を立って、アランに椅子を譲った。




