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小首を傾げる。「じゃ、犬とか猫は?」
「どっちももの好きしか飼わないぜ。魔につかれたらどんなおそろしいことになるか」
今まで見かけていなかったが、そんな理由があったのか。
そういえば、ステューフさんが大怪我したの、犬の魔物にやられたんだった。犬は群れるから、数でかかってくるだろうし、こわそう。
猫はそうでもない気がしたが、ダストくん曰く、魔にとりつかれた猫は人間ほども大きくなって、泳ぐしジャンプ力は凄いしめちゃくちゃ足がはやいらしい。おまけに毒を持つことが多い。
「だから猫なんて、入山してはじめて見た。本の挿絵の通りで、危うく腰を抜かすところだよ」
「へえー」
「ちゃんと管理出来りゃいいけど、猫ってふらふら出歩くんだとさ。どこで魔にとりつかれるかわかったもんじゃないだろ? こわくて飼えないよ」
ただし、とダストくんは付け加える。「シアイルとかロアではもの好きが多くて、その辺をうろついてるらしい。信じられねえけど」
ダストくんは本当に猫がこわいらしく、一瞬ぶるっと震えた。
トゥアフェーノに餌をやってみた。撫でると少しだけひんやりしている。皮がたるんでいるのが可愛い。鼻面を撫でたら、ぴぴ、と鳴いた。小鳥みたいな声だ。
トゥアフェーノを買おうとしたら、一頭で貝貨一枚くらいの値段。夏場が卵からかえる時期で、一番高いのは荒れ地産。寿命は長くて二百年(!)だそう。意味解らん。
ただし、臆病で、爪も牙もなく、ひたすら大人しい性質をしているせいで、魔物に襲われた時にはいけにえにされる。トゥアフェーノを置いて逃げれば人間は助かる訳。
それに、人間の手で繁殖させるのはほぼ不可能。更に、成長がゆっくりで、二十歳くらいにならないと車をひけない。
ナジさんは、子連れのお母さんトゥアフェーノを子どもごと捕まえて、村外れにある牧場で育て、出荷している。村に着いた時子どもたちがトゥアフェーノと遊んでいたが、ああやって人間に慣れさせないとストレスで死ぬこともあるらしい。基本的に動作はゆっくりだが、信頼できる人間と判断すれば走って車をひくことも出来る。
「こいつら、臆病だけど賢いんだ」
ダストくんはトゥアフェーノの顎の下を擽る。「やなやつの云うことはきかない。でも、信頼してる人間が頼んだら云うこと訊いてくれるんだ。最近じゃ、扱いやすくて餌代のかからない、トゥレトゥススやラシェジルのほうが人気だけどな。値段も安いし」
トゥレトゥススは熊、ラシェジルは馬のことらしい。どれ?と訊くと指差したから。舌噛みそう。




