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職業は自分の意志ではどうしようもない場合があって、だからそれについて訊ねるのは不躾。
ってことは、おそらく傭兵協会での査定にも響くのだろう。協会へ抗議されることをこわがってか、イルクさんは歯切れが悪い。「勿論答えたくないなら答えなくってもいいんだ」
これは、どう答えるのがいいのかなあ。
仲居と云って、めずらしい職業だと吹聴されたら困る。ナジさん達には云うしかないと判断したから云ったが、イルクさん達には云わなくっていい気がする。めずらしい職業だと目立つのも、この何日かで学んだ。
それに、不名誉な名前の職業というものがある。運悪く適職がそれしかないひと達は、隠している場合もある。なら、云わなくて大丈夫か。
口を噤んで考えていると、ダストくんとハーバラムさんが戻ってきた。「マオ、髪編んでやるよ」
「あ。ありがと」
「イルクたちは湯浴み、いいの?」
ハーバラムさんが訊く。三人は頭を振った。「じゃ、ご飯にしよっか。明日は午前中商談があるから、イルクたちは宿で休んどいてね」
三人が頷き、揃って食堂へ向かう。
ダストくんへ、収納空間から取り出した髪飾りを渡した。
「マオ、なんでも彼でも収納空間にいれてるな。母さんの薬もそっち?」
「ううん、かばん」
「一回料理中に指切ったんだろ? 母さんそれで張り切って、普段つくらない怪我の薬つくったんだぜ」
ああ、そんなこともあったっけ。
かなり血が出たから、心配させたらしい。お礼は云ったけど、全然足りてないな、これじゃ。ドールさんの好きそうなものを買って、ダストくんに持って帰ってもらおう。
うーん、好きなものなんだろう? お菓子……は持って帰るまでに悪くなりそうなものはだめだ。となると、村でも普通に食べられる、クッキーとかビスケットしかなくなってしまう。アクセサリは、贈っていいものか、解らないな。本が手にはいる値段なら、最近出版された、調剤の本なんかいいかも。
「収納空間は綺麗にしてないと、いざって時困るぞ」
う。もとの世界でも鞄や引き出しははぐちゃぐちゃだったし、整理整頓は苦手だ。
客室を整えるのは手順が決まっているから簡単なんだけれど、自分のスペースを好きにしていいとなると、何も置かないかものだらけかのどちらかになってしまう。調度だの内装だのを考えるのも苦手だし。
歳下に諭されてビミョーにショックをうけた。
エイマベルさんが呟く。
「なんだ。あの子の母親が錬金術士なのね」




