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や、鉱泉らしいし、天然だし、泥湯がお肌にいいのも知ってますよ?いいよねほんと。気持ちいいし。
でもあったかくないんだよ!
泥の濃度高いし。試しに手つっこんだらまあ外気よりはあったかいかな? くらいで正直体温より断然低い。そのうえ、「焦熱士は風邪で休んでます。お湯は提供できません」と書いた立て札があった。こっちが風邪ひくわ。
浴室のほうから湯気が漂って来ないしすれ違う皆さん顔色悪いからいやな予感はしてた。当たってもちっとも嬉しくねえ。
あったかいお風呂に肩までつからせてくれ!
が、これも温泉だし、と気を取り直して、濡らしたタオルにせっけんをこすりつける。水だろうが綺麗になりゃいいし、泥湯でも温泉だからいいのだ。……あったかいお風呂にはいりたいけど。凄くはいりたいけど!
腹立ちまぎれに体中ごしごし洗い、頭もわっしゃわっしゃ洗った。爪立ててやった。
冷たーい水で石鹸を流し、タオルをゆすぐ。しぼったタオルを収納空間へぽいした。
泥が溜まっている浴槽を見遣る。……仕方ないかあ。体洗えるだけいいよね。頭すっきりしたし。まー、いっかあ。
結局楽しく泥を体へ塗ったくる。足先からぺたぺたやった。どんどん冷えて来るなあ。
ん? 先客のお兄さん達が一ヶ所にかたまってこっちを凝視してらっしゃっる。
あら鼻歌なんか奏でてたかしらお行儀悪かったなと、水浴びだけど体が綺麗になったのと、泥湯ぺたぺたが案外面白くてうきうきした精神状態で、にっこり笑顔で目礼した。
お兄さん達のうちひとりが卒倒した。
はあ? ……まさか冒涜魔法発動した?!
田んぼに落ちて救出されたひとみたいな泥塗れ状態で、あわてて近寄る。助け起こそうとしたら残りもきゃーみたいな悲鳴を上げた。「え? え?」
お兄さん達はひとりまっさお(卒倒)残り真っ赤である。何故?
「だいじょうぶですかあ?」
のぼせ……はしないか冷たいもん。
倒れたひとの傍へ膝をついた。息はしてるみたいだけど、うんうん唸っていて、大丈夫そうではない。
「頭打ったりしてないですよねえ?」
お兄さん達を見詰める。どんどん赤くなっていった。
う、寒い。泥があったかくないし、水分が蒸発していくから体温が奪われる。そして、おそらく普段はお湯を張ってあるのだろう浴槽には冷たい水。浴室自体がきっといつもより寒い。
お兄さんのひとりがあわあわして云う。
「こ、こ、こっちは男湯だぞ!」
はあ? 男湯だからなに。




