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「でも、帝国や神聖公国は、そういうめずらしい職業になれるんならなりなさいって考えかただね。癒し手なんて、いざ戦になったらどれだけ必要か解らないだろ?」
それはそうだ。頷く。
「連邦は、職業選択の自由があるよ」
「いいですね」
「ねえ……今、ほかに魅力的な職業があるのに癒し手を選ぶのは、祇畏士の行に同行したいってひとくらいだろうね。大体理屈で云や、この世に絶対必要なのは、還元士だけなんだってさ」
あー、還元しないと世界がおかしくなるんだったな。還元士になれるひとはあんまり逃げ場ないじゃん。
「ま、このみっつの職業は、名誉のある職業だから。その辺の射手なんぞよりずーっと立派な職業加護があるしね」
「そうなんですね。あの……あんまり名前の宜しくない職業って、ひとから悪く思われたりしないんですか?」
「ああ、「悪党」とか、「ごろつき」とかね」
ハーバラムさんはくすっと笑う。「当人たちは凄ーく気にするみたいだね。ちょっと目がよくなるくらいの職業より、条件あるけど体力が大幅にあがったり、魔物をこわがらせて追い払えるほうが役立つんだけど。まあでも、昔気質のひとでも、目くじら立てたりはしないよ。どっちかっていうと、同情される」
魔王は同情してもらえないんだろうなあ。即座に滅却されそう。
馬車が停まった。外からダストくんの声がする。
「マオ、ちょっと来いよ」
なんだろう?
ハーバラムさんと目を合わせた。「……降りるかい?」
「んー、ちょっと見てきます」
荷台を降りた。ハーバラムさんもついてくる。
ダストくんは御者台から降りてこちらへまわってきていた。にこにこして、くいと肩越しになにやら示す。
「井がある。能力証出してもらえよ」
……は?
一瞬思考停止していた。
ダストくんが喋っている。「マオは御山で下働きしたいんだろ。下働きったって、能力値の高いほうが採用されるだろうからな。能力証は持ってかなきゃ」
「ダスト坊はかしこいねえ」
ハーバラムさんがそう云うと、ダストくんはちょっとむっとした。「ハーおじさん、茶化すなよ」
「茶化しちゃいないよ。マオ、能力証明書、もらってきたら? 銀貨一枚で能力のお墨付きがもらえるんだから、高いもんでもないし」
能力証明書……って、キャラシートか。
キャラシートをつくる?
能力値とか、特殊能力とか、職業とか……。
「悪しき魂」。「魔王」。
つくったら職業がばれる!




