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お昼になって、ご飯を食べた。ハーバラムさんが宿で買っておいてくれたのだ。ハーバラムさんは、収納空間から紙包みを取り出していた。
ちょっとスパイシーで、甘辛いような味付けの、山羊肉の焼いたやつ。それをうすく切って、火を通した野菜の千切りと一緒にパンにはさんだものだ。
パンと云っても発酵させたタイプではなく、小麦粉を、多分水で練り上げただけの生地を、平たく伸ばして焼いたもの。ぱさぱさごわごわしているナンと云った感じ。
それをおりたたんで具をはさんである。おそらく、焼きたてに具をはさむのだ。でないと生地が割れると思う。
サンドウィッチはおいしかった。エイマベルさんは、釈然としない様子ながらも、薬についてはもう喋らない。イルクさんとステューフさんは、エイマベルさんが不機嫌げなので、ちょっと困っているらしかった。
なにが契機で、職業のことがばれるとも知れない。気を付けているつもりだったけれど、全然だめだ。だって、ファンタジーっぽい世界だし、あれくらい効くお薬は普通にあるものだと思ってたんだもん。めずらしいものを簡単にひとにつかったら、怪しまれるのじゃなかろうか。
ほかにも常識に欠けているところがあるし、それがいいほうに解釈されてるうちはいいけど、悪いほうに解釈されたら異世界人=魔王の可能性を考えるひとが出てこないとも限らない(伝承程度だけど、よそから魔王を召喚する儀式があるってことになってるんだからさ)。強制的にパラメータを見られたらお仕舞だ。そういう職業もしくは特殊能力がある可能性だってない訳じゃない。
それに、魔王でないことを証明する、詰まりほかの職業であることを証明する術が俺にはない。だって魔王だからね。井につれていかれたらいい訳もきかないし。
ダストくんは色々追求しないでくれるけれど、ほかのひとがそうである保証はないのだ。ていうか、俺根性ないから痛いことされたりしたら口を割る自信があるぞ。
ともかく、少なくともエイマベルさんには疑念を抱かせてしまった。失敗だったかな……。
いや。危うく人死にが出るところだったのだ。仕方ない。次、同じようなことが起こっても、やっぱりお薬を渡す。助けられるのに助けないのは無理だ。
サンドウィッチは、考えごとの間になくなっている。包み紙をハーバラムさんに返した。
サンドウィッチは冷めていたから、やはり収納空間でも、時間が停まっている(仮説)のはめずらしいのだろう。
だって、ダストくんが、揚げたてのほうが旨い、と、揚げパンについて助言してくれた。
収納空間にいれたものがそのままの状態をキープするのなら、それは要らない会話だ。だって、取り出した時も揚げたてなのだから。
色々と、早合点していたり(薬の効能についてとか!)、解っていないことが多すぎる。今までもまずいことを沢山している可能性はあるな。クッキーは大丈夫として……お風呂にはいりたがるのもだめだったかも。
けれど、解らないことをひとに教えてもらうのもリスクが高い。常識的なことも解っていないのがばれてしまう。
レント? に、図書館とか本屋さんがあれば助かる。さいわい、文字は読めるから、本を読んで知識を蓄えないと。ナジさん家に何冊か本があったから、本は庶民では手が出せない高級品、なんて世界ではないのだろうし。
や、でも、どれも古色のついた本だったからなあ。めずらしくて大切にされてるのかも……図書館に利用制限がついてたらどうしよう?本屋さんでも、本がめちゃくちゃ高いとか。
ああ~、もとの世界への帰還が遠いよおおお。
感想ありがとうございます。加筆しました。




