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何時間も歩いたのなんて久し振りだからなあ、疲れたあ~。眠たいなあ、と考えているうちに寝ていたらしい。かたんと音がして目が覚めた。
うっ、目脂が酷い。いや、じゃりじゃりしてるし、砂だな。痛い……。「うー、すなー」
指先で目頭にたまった砂を落としていると、笑い声がした。仰ぐ。ダストくんのお父さんだ。ダストくんも居て、嗜める。「父さん」
「や、すまん、おじょ……坊や。顔を洗いたいだろうが、その格好だと皆が動揺するんでな。これを着けなさい」
動揺。どうして。服ならちゃんと着ていますが。
おじさんが屈み込んだ。差し出されたのはピアスだ。金色のとか、緑の石のとか、十個くらいおじさんの掌に乗っている。「どれがいいかね?ああ、洗ってきたから心配は要らん」
「えーっと」髪の毛を両耳へ掛ける。「穴、開けてないです」
ふたりとも言葉を失ってしまった。……?
暫くしておじさんが云った。
「しかし……わ、わかった、ダスト。髪飾りを持ってこい」
ダストくんが出ていく。おじさんは困り顔だ。「つけていないんじゃなく、つけたことがないのか」
「あの?」
「ああ、すまんね。そうだ、息子の恩人になのってもいなかった。わたしはナジ。ナジ・サインという。息子はダストだ」
「ご丁寧にどうも」
頭を軽く下げた。「マオといいます。マオ・クニタチ」
名字が後らしいからそうなのった。おじさん=ナジさんは、こっくり頷く。
「ドラクの出かい?」
「えーと……?」
「違うのか。共通語は解るね?」
多分解っているんだろう。会話ができているし。
ナジさんは首を捻る。「じゃあ、生まれたところは? 出身地はどこかな」
解らん。ドラクってのはざっくりした地域なのかな? 国名?
ダストくんが戻った。大きいビーズと羽根を、紐に通したものを持っている。こちらへ来て屈み込むと、頭に触ってきた。思わず身を引く。
「あ」ダストくんは吃驚したあと、申し訳なそうに俯いた。「ごめん」
「……それなに?」
「なにって、髪飾り。男なら着けてなくちゃあ」
???
夢のなかでは名称があんまり出ずに話が高速で展開するので、いざそれを書き起こすとなると名前をつけるのが面倒です。魔王だからマオという安直にも程がある理由だったりします。