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 四月の雨亭へ戻る道すがら、他愛もないお喋りをする。ルッケンレーネ一座の本拠はシアイルで、毎年春の終わりから夏にかけて、ディファーズでツアーをやるそう。勿論都にも来る。おばあさんにつれられて、ジーナちゃんは何度も見に行った。

「おばあさま、軽業が好きなの」

「ああ、凄いもんね、空中でぐるぐるまわったりして」

「そう……この茨の冠は、その時に買ってもらったのよ。でも、おばあさまが亡くなってからは、一度も行っていないわ。お母さまはああいったものが嫌いだから」

「ねえ、昨日見損ねたし、今日もう一度行こう」

 厨房へ這入った。手を洗う。ジーナちゃんも隣へ並んでせっけんを掴んだ。

「悪いわ」

「ううん、ジーナちゃんと、あと何人かで。残ったひと達は夜公演へ行けばいいし」

「……それだと、ご飯をつくるあなたは動けないわよね」

「そうだね」手をよくゆすぎ、拭く。「でも、ジーナちゃん、いきたいんでしょ?」

 ジーナちゃんは逡巡を見せ、しかし小さく頷く。

「じゃあ」

「でも、悪いわ」

「……明日まで機会はあるし、なにか手を考えるよ」

「いいえ。気にしないで」

 ジーナちゃんは、サーカスへの思いを断ち切るみたいに、俺から目を逸らして乱暴に手をゆすいだ。


 今朝は、具沢山のポトフだ。人参・れんこん・たまねぎの乱切り、厚切りのベーコンを炒め、豚ストックで煮込む。お塩とこしょうで味を付け、ローレルとローズマリーを少し(ほんとに少しだけ!)づついれて、キャベツ・カリフラワーのざく切りを加えたら、歯応えが残るくらいに火を通す。

 それに、オムレツと、発酵させたパン。おいしいくろすぐりのジャム付き。サラダは、にんにくのうす切りを多めの油でかりっと揚げて、あらってひとくち大に切ったレタスにかけ、レモン汁とお塩で調味したもの。にんにくがたっぷりなので、けっこうがつんとくる味だ。火を通してもしゃきしゃきするレタスは、色々とつかいみちがある。もとの世界だと沢山食べたくても高い。こっちだと、レートは正確には解らないけれど、感覚的にはもとの世界より三から四割減かな。

 ルッタさんとレアディさんが来て、みんなが起き、リエナさんもやってきた。ジーナちゃんは椅子に座って茨の冠を手繰っている。

 俺はそれを見て、リエナさんへ耳打ちした。「オムレツなんですけど、焼いてもらえますか? あとはできてるので」

「いいわよ。でも、どうかしたの?」

「ちょっと用事。こっちのボウルがサラダ用のたれです。にんにくはここに沢山切ってあるので。スープはここ」

 リエナさんが頷く。俺はお礼を云って、セロベルさんへ近付いていき、外出許可をもらった。


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こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
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