56
「ステューフ!」
「……イルク……エイマベル」
「よかった」
エイマベルさんが泣き出した。
放り出された壜を拾う。イルクさんが茫然としてこちらを見ていた。
遭遇した魔物は、犬みたいなやつ。群れで襲ってきたので、ステューフさんが魔法を打ち上げて気を逸らし、逃げた。
けれど、数匹追ってきていて、大きい個体が魔法をつかったそう。それがステューフさんへ命中した。
当たりどころが悪ければ、歴戦の傭兵でも一撃死することはある。ステューフさんは持ちこたえたほうだった。
口振りからすると、イルクさんは半分諦めていたようだ。でも、ステューフさんが助かってほっとしていた。
ステューフさんを荷台へ押し込み、エイマベルさんへ顔を洗えと云ってから、イルクさんはきまり悪そうにお礼を云ってきた。
「薬、ありがとう」
「あ、はい。よかったです」
適当に返し、血を見て気分が悪かったので、収納空間からお水の壜を取り出して飲んだ。ヤームさんに出してもらった水を詰めておいたのだ。お薬の空き壜に。
壜を戻した。ダストくんと一緒に荷台へあがる。ステューフさんは破れて血塗れの服を脱いで、新しいものに着替えていた。
まだ安心できないということで、馬車は少々はやい速度で目標のまちへと向かう。
揚げパンを食べようかなとちょっと頭を過ぎったが、やめておく。馬車の速度的に酔って大変なことになりそうだから。
エイマベルさんもステューフさんも口をきかなかった。ダストくんは、俺にくれたのと同じ薬? と訊いてきた。多分ねと返す。
うっすら酔ってきたところで、目標のまちへ着いた。
前のより立派な塀で囲まれたまちだ。
出入り口で面通しがあって、ここは通行料が発生するらしくハーバラムさんが全員分を払った。エスターだったから大した額ではないのだろう。
宿はまちの中心地にあって、馬車やトゥアフェーノ用の建物が併設されていた。昨日泊まったところよりあきらかにランクが上だ。
厩番が出てきて、ハーバラムさんが幾らか渡す。馬車とトゥアフェーノを任せて宿へ這入った。
「ここはね」
ハーバラムさんの声は明るい。わざと明るくしているらしかった。「馬車を預ける時にお金を払っておけば、もし荷物が盗まれても補填してくれるんだよ。きちんとした宿だから、そんなこと一度も起こったことないけどね」
なるほど、簡易の保険みたいな?
まず、一階の食堂でご飯だ。




