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お昼は食べられなかった。
案の定というか、魔物に襲われたのだ。
町を出てから一時間もたっていなかった。
イルクさんの声がして(なんと云ったかは聴き取れなかった)馬車が停まり、ステューフさんとエイマベルさんさんが外へ出て行った。
すぐにハーバラムさんが乗り込んでくる。顔がまっさおだった。「ああいやだ、わたしはきったはったは苦手なんだよう」
「ハーおじさん、こっち」
ダストくんが招き寄せる。ハーバラムさんは涙目でダストくんの隣へ体を押し込み、ダストくんへしがみついた。ばらかな?
ダストくんは苦笑いだが、いやがりはしない。
ハーバラムさん大丈夫なの、とこっそり訊いてみる。ハーバラムさんは昔、家を壊されて以来、魔物が苦手なのだそう。その時家のなかに居て、危うく圧死するところだった。
だからこれくらい怖がっても仕方ないし、すぐ落ち着くんだ、とダストくんは低声で云って、ハーバラムさんのせなかをぺたぺた撫でている。
馬車がゆっくり動きだした。エイマベルさんが飛び乗ってくる。「数が多すぎる。逃げます」
速度が上がった。体がぽんと宙へ浮く。ダストくんが引っ張ってくれたおかげで箱への激突をまぬかれた。
「ありがと」
「舌を噛むぞ」
これ以上滑舌が悪くなってはたまらない。大人しく口を噤み、ダストくんの服を掴んでいた。
どれだけ走り続けたろう?
馬車の速度が弛んだ。外から怒鳴り声がする。「エイム! 薬を寄越せ!」
エイマベルさんが飛び出していった。馬車が停まる。悲鳴が上がる。
「ステュー!」
ダストくんと顔を見合わせた。
どうやら、傭兵の誰かが怪我をしたらしい。ハーバラムさんがふらふらと外へ出ていく。
ダストくんとついていった。
馬車の横に、ステューフさんが倒れている。エイマベルさんとイルクさんで処置中だった。エイマベルさんがステューフさんへ薬を振りかけている。イルクさんはステューフさんの胸元をおさえていた。
血が流れている。沢山。
気分が悪くなってきた。あの血の量はまずい。
鞄から傷薬を取り出した。後先考えてはいない。血の量が多くて気持ちが悪かったから傷を塞ごうと思っただけで、助けようと思ってはいない。
「これ」近寄って行ってエイマベルさんへ差し出した。「お薬です。服ませてあげて」
「は?」
「はやく」
強く云うと、エイマベルさんは壜を受け取った。震える手で栓を抜き、ステューフさんの胸元へ中身を垂らす。服ませてあげてっていったのに。
だが、不思議なことが起こった。
壜が空になったと同時に、ステューフさんが目を開けたのだ。




