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雑穀ご飯、野菜のスープ、山羊の骨付きステーキ。山羊肉は脂っこくて、半分くらいで挫折した。残りはダストくんが食べてくれる。村でトマトや香辛料と煮込んだものはおいしかったが、ここのはそのまま焼いただけで、臭みがきつい。ちょっと古いっぽいし。
最後に、ダストくんが骨をばりっと噛んで割り、髄をすすって食べた。そういうものらしい。ハーバラムさんがわたしのも割ってよとダストくんに頼んで、おいしそうに髄をすすっていた。吃驚したけれど、よく考えたら豚骨とか牛骨から出汁をとるし、骨の髄ならおいしいか。
とは思ったものの、少々胃がもたれていたので、要る? とダストくんに訊かれても遠慮した。傭兵たちも、お肉を食べるだけで、骨には目もくれない。
部屋は二階にあった。
当然というか、お風呂はこの宿にもなくって、たらいなら貸し出せるということだった。疲れていたし、すぐ寝たかったのでやめておいた。
部屋にはくっついて置かれたふたつのベッドと、背の高い、小さなテーブルがあるだけ。テーブルの上には木桶が置いてあるから、洗面台なのだろう。
窓を開けてみた。がらすではなく、木の扉がついているだけだ。「わ」
風が吹き込んでくる。ほんのり甘い匂いがした。うすぐらいが、道を隔てた向こうに見える家々から、食事の香りが風に運ばれてきたのだろう。
伸びをした。気持ちのいい宵だ。ぐっすり眠れそう。その前に、歯を磨かなくちゃ。
隣の窓がぎしっと音を立てて開いた。
木桶を持った手がぬっと出てくる。木桶がさかしまになり、なかの水が通りへ降り注いだ。木桶が引っ込み、木戸がぱたんと閉まる。
ああはい、排水はそうしろと。勉強になります。
うすうす勘付いていたが、水は出せなかった。
だって魔法一覧にあるの、冒涜魔法のみっぽいもん。水なんか出せるか。
おかしな話じゃない? だって自然の摂理を曲げる天への冒涜の魔法だぜ。水も出せやしないのに摂理を曲げるってなんなの。
なんかこう、禍々しい感じならできるのかもしれない。動物の体から抜いた水分を水に変えるとか。
しかし元手がないのであった。くそう。
一階におりて、フロントで井戸はないか訊いてみた。裏手にあるそう。そこでいいや。
甘かった。この世界では魔法が割合普通に存在するのだ。
井戸は、縄を付けた桶を放り込んで水を汲むタイプで、なんと滑車なし。汲みあげるのに非常に体力をつかった。何故って、水位が相当低くなっているのだ。壁に桶をがんがんぶつけたから中身は半分以上こぼれてるし。
それでも、歯は磨いた。ついでに顔を洗った。これで寝れる。
ポンプにしろとは云わんが、せめて滑車はつけようよ。水汲みが楽になるからさあ。
そっか、水くらい出せるから汲まんのか。ぐうう。




