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ナジさん、ドールさん、それに見送りに来てくれた奥さんたち、シアナンさん、ラトさん、ヤームさん、丁稚さん達と、お別れの挨拶をした。
「マオ、元気でな」
「いつでも戻ってきていいからね」
「お菓子のつくりかた、教えてくれてありがとうね!」
「マオの飯旨かったよ」
……。
皆、最後には、「天の加護がありますよう」と云ってくれた。旅に出るひとへの定番の言葉のようで、ダストくんもそれを云ってもらって、面映ゆげにしている。
旅へ出るひとへ渡すのが伝統らしい、裁縫道具をもらった。といっても、小さな(片手で握りこめるくらいの)箱に、針が数本と、糸がふた巻きはいっているだけだ。服が破れたらこれで繕えという意味の、実際的な縁起ものである。それは、スペースがあったので、ポーチへいれた。
「じゃあ、出発だね。暫くはわたしが御者をするよ。昼を食べたらダスト坊に代わるからね」
ハーバラムさんはそう云って、馬車の前へまわった。
ダストくんとふたりで馬車へ乗る。なかには三人、武装した若者がいた。
三人とも、短く自己紹介するだけだ。
腰に短剣を二振り佩いたのが、「戦士」のイルクさん。
杖を持っているのが、「奇術師」のステューフさん。
背嚢を背負っているのが、「薬屋」のエイマベルさん。
イルクさんステューフさんは男性、エイマベルさんは女性。全員、二十歳前後と云ったところかな。
荷物の箱や袋の隙間へ座る。馬車が動き出した。幌があるので外は見えないが、行ってらっしゃーい、という声は聴こえてきた。
「いい村だね」
エイマベルさんがにこっとする。「あんた、入山してたんでしょ? あたしらより強いんじゃない?」
「そうでもないです。職業はただの戦士なので」
「僕とおんなじか。でも、それで入山したってことは、君は能力値が高い訳だ」
「いえ……」
ダストくんは、いつものお喋りはどこへやら、黙り込んでしまった。
傭兵三人は、ダストくんが黙り込んだので、仲間同士でお喋りを始める。武器の値が上がったから、レントでなにかを買って、どこかへ持っていって、……とかなんとか。多分、傭兵ついでに、ちょっとした行商で値上がり分を補填しようとしている。
「戦士でも入山できんのね」
「僕は弾かれたけど……強そうには見えないのになあ」
「俺たちのほうが場数も踏んでる。頼りにはしないほうがいいぜ、こんな子ども」
そんな会話が聴こえてきた。ダストくんのことだ。
当人を目の前にして失礼な、とちょっとむっとしたが、ダストくんは無反応。ダストくん本人が黙っているのならこちらも黙っているしかない。
三人はそれからもこそこそと喋り続けた。




